国内対策を怠った結果、米政府は偽情報研究機関との接触を禁止された 偽情報対策へのバックラッシュの続き

以前、「共和党が偽情報研究者を狙い撃ちで攻撃」「アメリカで起きている偽情報対策へのバックラッシュ」で紹介したようにアメリカでは偽情報対策への攻撃が広がっている。共和党が中心になって進めており、深刻なダメージを与えている。

最近では7月4日、ルイジアナ州連邦判事はアメリカ政府がSNSプラットフォーム企業に接触することは憲法に反するとし、これを禁止する仮差し止め命令を出した。アメリカ政府はすぐに控訴した。日本のメディアでも報道されているが、いくつか重要なポイントが抜けている記事が散見される。
この背景には来年の大統領選を巡る共和党と民主党の争いがある。そして以前の記事で紹介したように共和党は下院司法委員会を中心に偽情報対策を潰すキャンペーンを繰り広げている。今回の訴訟もその一貫で行われたもので、ミズーリ州とルイジアナ州の検事総長が起こしたものだ。
憲法に反した検閲行為であるという主張を言葉通りに受けとることはできない。

より深刻なのは、大学やシンクタンクなど偽情報についての研究を行っている機関との接触も禁止されたことだ。これによりアメリカ政府と研究機関との共同での調査研究はできなくなる。日本でも偽情報に関わる多数の関係者が、こうした研究機関のアウトプットを参照している。これらがなくなるとは言わないが、活動が制限されることになる。なぜか、このことを報道している日本のメディアはないようだ。

すでにこうした共和党のキャンペーンを受けて、政府機関や民間企業は偽情報対策の支援を後退させている。少なくとも来年の大統領選の結果が出るまで多くの関係機関は様子を見る可能性が高い。そして大統領背が共和党が勝った場合は、アメリカの偽情報対策は大幅に後退する危険がある。

こうしたことはあらかじめ予想されていた。何度も書いたように偽情報、デジタル影響工作の対策の基本は国内なのだ。国内が脆弱だと、簡単につけ込まれてしまう『ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する』『ウクライナ侵攻と情報戦』でもさんざん書いた。
アメリカで起きていることを他山の石としたいところだが、二の舞になりそうな気配もかなりある。

好評発売中!
『ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する』(原書房)
『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。

関連記事
Ruling Puts Social Media at Crossroads of Disinformation and Free Speech、https://www.nytimes.com/2023/07/05/us/politics/social-media-ruling-government.html

Judge blocks U.S. officials from tech contacts in First Amendment case、https://www.washingtonpost.com/technology/2023/07/04/biden-social-lawsuit-missouri-louisiana/

Judge’s order limits government contact with social media operators, raises disinformation questions、https://apnews.com/article/social-media-protected-speech-lawsuit-injunction-d8070ef43b3b89e8e76b4569c77446d9

Judge’s order limits government contact with social media operators, raises disinformation questions、https://apnews.com/article/social-media-protected-speech-lawsuit-injunction-d8070ef43b3b89e8e76b4569c77446d9


本noteではサポートを受け付けております。よろしくお願いいたします。