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ニュースの偏向の方がひどくても誤・偽情報の脅威の方が大きいと感じる、という国際調査結果

ハーバード大学ケネディスクールのMisinformation Reviewに2024年5月14日に掲載されたアムステルダム大学のふたりの研究者による論文「Misinformation perceived as a bigger informational threat than negativity: A cross-country survey on challenges of the news environment」(TONI G. L. A. VAN DER MEER、MICHAEL HAMELEERS、2024年5月14日、 https://doi.org/10.37016/mr-2020-142 )は、一般的なニュースと誤報(Misinformation、ここでは誤・偽情報に近い意味で用いられている)についての認識をアメリカ、イギリス、オランダ、ドイツ、フランス、ポーランド、インドにおいて調査した結果をまとめたものとなっている。


●概要

すごく簡単に要約すると、ニュースはネガティブなものを目立たせて伝える偏向があり、そのため歪んだ現実認識や世界観をもたらすリスクがあるという研究成果はたくさんあるらしい。それはニュースの質の低下にもつながっている。受け手にもよくわかっており、ニュースメディアへの冷笑的な不信感につながっている。
一方、誤・偽情報は脅威であるという警告があちこちで見るものの、誤・偽情報と遭遇する確率はネガティブなニュースに比べるとはるかに少ない
また、ネガティブバイアスは情報空間に大きな影響を継続的に与える脅威だが、誤・偽情報は一過性のものが多い。
ネガティブなニュースの影響は大きく破壊的だが、誤・偽情報の方が大きな脅威として認識されている。

調査結果は全体的にニュースに対する冷笑的な認識を示していた。平均すると、ニュースの半分以上に否定的な内容と誤報が蔓延しており、社会に混乱をもたらすと認識されていた。
ニュースのネガティブバイアス(ネガティブな情報を多く取り上げる)より体系的で広範囲に及んでいるが、調査対象国全体で視聴者を不安にさせているのは主に誤・偽情報だった。
ネガティブなニュースの方が目立っていると感じている一方で、誤・偽情報の方が破壊的な脅威と見なしている。

「Misinformation perceived as a bigger informational threat than negativity: A cross-country survey on challenges of the news environment」(TONI G. L. A. VAN DER MEER、MICHAEL HAMELEERS、2024年5月14日、 https://doi.org/10.37016/mr-2020-142 )
「Misinformation perceived as a bigger informational threat than negativity: A cross-country survey on challenges of the news environment」(TONI G. L. A. VAN DER MEER、MICHAEL HAMELEERS、2024年5月14日、 https://doi.org/10.37016/mr-2020-142 )

大多数の国ではネガティブなニュースよりも誤情報を脅威と見なしているが、誤情報の方が目立っているかどうかについては国によって認識に差があった。
これらのギャップは、誤情報に対する耐性における状況の違いに対応していると考えられる。
視聴者に誤・偽情報を絶えず警告するよりは、ニュースメディアへの信頼を再構築するために、ニュースとニュース制作に関するより正確で安心して視聴できる状況を作ることに集中すべきであると提案している。

●感想

近年、行われている誤・偽情報やその対策の流れで考えると、やっぱりそうなるよね、という印象。しかし、ニュースの偏りの話を誤・偽情報を並べて研究した論文は初めて見た。この論文でも、このふたつを並べて研究したものはほとんどないと書いてあったので、ほんとに少ないのだろう。
「ネガティブバイアスは情報空間に大きな影響を継続的に与える脅威だが、誤・偽情報は一過性のものが多い」というのはまったくそのとおりで、「誤・偽情報は社会への脅威」というのもニュースが生み出した継続的な脅威の一種だ
並べて比較すると、ニュースはその悪影響力に比べて、あまりにも批判が少なすぎると思う。根拠のない上から目線や特権意識も問題だ。なぜ、一般人よりえらいと思っているんだろう?(このへん個人的感情多々はいってます)

いずれにしてもメディアへの不信や衰退は、自ら撒いた種なので、いったん消えてほしい。もし、必要なら必要な形で再生するだろう。少なくともほとんどの日本のメディアは消えても仕方がない。

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