見出し画像

natureの誤・偽情報特集にはなにが載っていたのか?

2024年の6月のnature誌の特集は誤・偽情報だった。なにが載っていたのだろう? 私は同誌を購読していないし、論文ひとつひとつはオンラインで購入できるのだが、現状の読むペースで買い続けると破産する。というわけで無償で公開されているものの範囲でご紹介したい。


●掲載されていた記事

特集のタイトルは「Fake news?」で巻頭言をのぞいて5本の記事がある。・無償公開、×は有償公開。

・巻頭言 What we do — and don’t — know about how misinformation spreads onlinehttps://www.nature.com/articles/d41586-024-01618-z

×論文 Post-January 6th deplatforming reduced the reach of misinformation on Twitterhttps://www.nature.com/articles/s41586-024-07524-8

・論文 Companies inadvertently fund online misinformation despite consumer backlash,
https://www.nature.com/articles/s41586-024-07404-1

・コメント Misinformation poses a bigger threat to democracy than you might thinkhttps://www.nature.com/articles/d41586-024-01587-3

・コメント How prevalent is AI misinformation? What our studies in India show so farhttps://www.nature.com/articles/d41586-024-01588-2

×パースペクティブ Misunderstanding the harms of online misinformation、 https://www.nature.com/articles/s41586-024-07417-w

●概要

・巻頭言の内容 What we do — and don’t — know about how misinformation spreads online

巻頭言では誤・偽情報の問題は我々の社会の大きな問題であり、民主主義に対する脅威であるという「Misinformation poses a bigger threat to democracy than you might think」を最初に紹介している。そのあとで、各記事の簡単な紹介をしている。実は残りの4記事のうち2つの記事では誤・偽情報問題が過剰に評価されていることを指摘している。そのため巻頭言は冒頭で、誤・偽情報の脅威を強調した記事(主題はそこではないが)を紹介する流れになっている。蛇足だが、誤・偽情報関連で誇張されていることが多いのはもはや前提になっているような感じがした。
オピニオンとして誤・偽情報の脅威を唱えつつも、デビデンスはそれを否定するものが多いというのは昨今の誤・偽情報研究を象徴している。また、アメリカでの誤・偽情報対策の後退も反映していそうだし、この流れが続けばさらなる後退に結びつくだろう。

・Post-January 6th deplatforming reduced the reach of misinformation on Twitter

有償公開なので要約と巻頭言の紹介しか読んでいません。すみません。

2021年1月6日にアメリカ連邦議事堂襲撃事件発生により、当時のTwitter社が7万人の誤・偽情報拡散者をプラットフォームから排除した影響を検証した記事。
アカウントをバンされたユーザーによる誤・偽情報の拡散、およびそのアカウントをフォローしているユーザーによる誤・偽情報の拡散は減少した。ただし、1月6日周辺の出来事とアカウント停止措置が同時発生していたため、因果関係の推定値の大きさを特定することはできなかった。
また、アカウント停止措置を受けていない誤・偽情報の拡散者の多くは、Twitterを退会していたことがわかった。この結果は、SNSプラットフォームが誤情報の流通を管理し、より一般的に公共の議論を規制する能力を持っている可能性を示している。
巻頭言では、この調査対象期間中に1つ以上の誤・偽情報を共有した利用者はわずか7.5%だったことから、誤・偽情報の全体的な露出が誇張されているという一般的な見解と一致しているとコメントしていた。

・Companies inadvertently fund online misinformation despite consumer backlash

これまで何度も言われてきたように、広告収益は一部の誤・偽情報拡散者にとって重要だ。この研究では、その実態を包括的に調査することを目指した。この研究では、下記3つの調査を行った。

過去の文献データ調査
2019年から2021年の3年間のネット広告データから5,485のWeb(誤・偽情報1,276件、そうでない4,209件)と42,595の広告主が出稿した9,539,847件の広告表示など、複数の過去データを組み合わせて分析。
誤・偽情報Webに広告を掲載している企業は幅広い業種にまたがっており、各業界の企業全体の46から82%を占めていることが判明した。デジタル広告プラットフォームから誤・偽情報Webへの掲載は多く、ある週にデジタル広告プラットフォームを使用した広告主の約80%が、その週に誤・偽情報Webトに表示された。デジタル広告プラットフォームを使用した企業は、デジタル広告プラットフォームを使用しない企業よりも誤・偽情報Webに表示される確率が約10倍高い。

利用者に対するギフトカード実験
実験参加者に複数のギフトカードからほしいものをひとつ選ばせるもので、もっとも優先されたギフトカードの会社が誤・偽情報Webに広告を提供していたことを知らせた場合と、そうでない場合の選択を実験した。また、誤・偽情報Webに広告を出していることを非難するようになるかも確認した。
その結果、被験者は誤・偽情報Webに広告出稿していたギフトカードを選ばなくなり、広告出稿を止めるよう請願するボタンをクリックするようになることがわかった。

企業担当者に対する実験
ほとんどの企業が誤情報ウェブサイトに広告を出しているということと対照的に、回答者は自社が誤情報ウェブサイトに掲載される可能性を大幅に過小評価していた。また、誤・偽情報Webに広告が掲載される企業に対して消費者が反応すると考えている意思決定者はわずか41%だった。
こうした考えは情報を与えることで変えることが可能だった。

提言
この研究では2つの介入を提言している。
1.広告主が、自社の広告が誤・偽情報Webに掲載されているかどうかを簡単に確認できるツールの提供を行う。

2.プラットフォームで一般的に使用されている「スポンサー」などのラベルに似た単純な情報ラベルを付加することで誤・偽情報Webへの出稿状況を確認できるようにする。

・Misinformation poses a bigger threat to democracy than you might think

数年前から広がっている誤・偽情報の見直しへの反論。有名人が名前を連ねているので注目されたものの、書かれていることは新しい事実や分析があるわけではなかった。
正論としては、誤・偽情報は民主主義への脅威であることを否定する論文や記事でまともなものはほとんど見たことがない。数年前からの見直しは、それを踏まえたうえで、正しく評価、検証する必要性を訴えているものなので、おそらく論点がずれており、存在しない相手への批判になっている。あるいはまともではない論文や記事のみを相手にしているのかもしれないが、それらがまともに取り上げられることはないので、この記事を読む必要はあまりない。
むしろここに書かれていることや、こういう記事がnatureに掲載されることこそ、見直しが必要な理由なのだと思う。

・How prevalent is AI misinformation? What our studies in India show so far

インドではWhatAppが普及している。インドの選挙においてWhatApp上で生成AIのコンテンツの使用状況を調査したもの。結論としてはほとんど使われていなかったらしい。

・Misunderstanding the harms of online misinformation

有償公開なので要約と巻頭言の紹介しか読んでいません。すみません。

有識者やジャーナリストが誤・偽情報の危険性をほとんどの検証結果と反することを発表していると指摘し、下記の3つのよくある間違いについて検証している。

1.現在、問題あるコンテンツに接触する頻度が高くなっている
2.その原因は主としてSNSプラットフォームのアルゴリズムにある
3.SNSプラットフォームは社会の分断などの問題の主たる原因である

数多くの研究結果からわかっているのは誤・偽情報や扇動的なコンテンツへの接触は少なく、そのような情報を求める強い動機を持つごく一部の層に集中しているという。
考えられる有効な対策として、こうした情報の消費が最も多く現実世界に脅威をもたらす層に、誤・偽情報や極端なコンテンツを推奨するSNSプラットフォームに責任を持たせることを提案している。
また、最も効果的な誤・偽情報対応策を適切に評価するため、外部研究者と協力するなど、プラットフォームの透明性を高めることも呼びかけている。こうした措置は、過去の研究やデータが乏しく、被害がより深刻化する可能性がある米国や西欧諸国以外では特に重要だ。

●感想

読む価値はあったけど、みなさんにおすすめできるような感じでもなかった気がする。
巻頭言だけ読めばよかったのかも
いや、「Misunderstanding the harms of online misinformation」は読むべきだったかも。

好評発売中!
『ネット世論操作とデジタル影響工作:「見えざる手」を可視化する』(原書房)
『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)
『フェイクニュース 戦略的戦争兵器』(角川新書)
『犯罪「事前」捜査』(角川新書)<政府機関が利用する民間企業製のスパイウェアについて解説。

本noteではサポートを受け付けております。よろしくお願いいたします。