専門家ほど自説に固執して結果を認めない傾向があるという実験結果

2023年11月22日に公開されたケンブリッジ大学 Journal of Experimental Political Science (JEPS)の論文「Inaccurate forecasting of a randomized controlled trial」https://doi.org/10.1017/XPS.2023.28 )は、専門家が実験(RCT)を行った際に無効な結果が出てもそれを認めない傾向があることを明らかにした。

●概要

この実験では、米国とパキスタンの学術研究機関および政策研究機関から280人の専門家を募集して行われた。大学教員148人、大学院生77人、ポスドク研究員16人、その他の研究スタッフ39人で構成された。予測には金銭的なインセンティブが与えられ、実際の結果に対する精度に応じて、予測の上位の者に少額の報奨金を支払った。実験は、情報通信技術(ICT)の利用で政治的態度を変化させることの有効性に関するものだった。

くわしい説明を割愛すると、結果は下記のようになった。

1.すべての被験者は一般的に効果について非現実的に楽観的だった。

2.被験者に途中の結果を知らせても予測に有意な影響はなかった。つまり、途中の結果に基づいて効果を推測していなかった。したがって、一般的に、被験者が得た情報を予測に取り入れ、可能性のある効果について現実的になるという証拠はなかった。

3.効果が確認できなかったという結果を受け入れることができたのは、専門知識を持っていない被験者だった。専門家は、結果に関する情報に受け入れることができないと結果になった。介入が有意な効果を生み出すという信念に固執している。

これらの結果から、専門家や政策実務家は実験が成功する可能性が高いとあまりにも簡単に信じてしまい、介入(この場合は情報通信技術(ICT)を利用して有権者に影響を与える)の効果がないという情報を提示されても、自説を変えない可能性がある。特に自分はより専門家であると考える被験者ほど、結果を予測に取り入れなかった

●感想

「再現性の危機」が叫ばれて久しいが、状況がよくなっていないことがわかる。
誤・偽情報の分野でも、過剰に脅威を訴えたり、有効性が検証されていない対策を薦める専門家が後を絶たないのもよくわかる。
バカにつける薬はないという見方もあるが、おそらくほとんどの専門家や政策実務者は自分が主張している実効性よりも、それによって得られる資金や利権に関心があるのだろう。

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