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国家間格差の減少と、国内格差の拡大が分断を加速する

Foreign Affairsの7/8月号に格差の話が載っていた。「The Great Convergence Global Equality and Its Discontents」(https://www.foreignaffairs.com/world/great-convergence-equality-branko-milanovic)だ。

冒頭で世界にポピュリストが増加し、トランプ、ブレグジット、イエローベストが起きた理由は格差というのは誤りであると筆者は指摘する。格差とポピュリズムの台頭の間には関係がないと言ってるのかと思ったが、そうではなかった。地球全体で見ると見え方が違うという話だった。格差には国家間の格差と、国内の格差があり、現在は国家間の格差は減少し、国内の格差は広がっている状態なのだ。

今回はかいつまんで要旨をご紹介するが、この論考はけっこう長くて格差の歴史なども整理しているので、関心ある方は読んでいただきたい。

●国家間の格差の減少と、国内格差の広がり

現在は国家間の格差の減少しているが、その原因のほとんどはアジア特に中国の急成長にあった。かつて欧米の侵略と植民地化によって国家間格差が広がったが、いまはその逆の現象が起きている。その一方で欧米を始めとする国々では国内格差が広がっている。

以前、欧米の中所得、低所得層は世界的には上位に属していた。今はその順位はずるずると下がり、グローバルサウスの人々に追い抜かれつつある。たとえばイタリアでは1988年から2018 年までの間に、最下位層の世界ランキングは20%低下した。一方、イタリアの富裕層の世界ランキングはほとんど影響を受けていない。同様のことが他の各国で起きている。ひらたく言うと、富裕国に住んでいても貧乏人はどこの国に行っても貧乏人ということになる。昔は日本で3カ月働いて、海外の物価の安い国で9カ月を過ごすような生活は可能だったが、もはやそれは難しくなりつつある。

今後もこの傾向は続く、中国の成長が鈍化した後はアフリカの成長が国家間格差を減少させるようになる。アフリカの国の成長が期待できないかもしれないが、人口は増加するので富裕国に移住し、その結果所得は増加するので格差は減少する。その一方で移民問題が拡大するだろう。

●感想

国家間格差の減少によって世界各国で所得分布が同じようになるという指摘は非常に参考になった。各国で同じように格差の問題が生まれて、国を超えて共有される傾向は今後も続くのだろう。陰謀論や人種差別=RVMEも広がるだろう。

以前から私が言っている国家間の対立と、国内での対立がつながっているという話ともつながる。

「ネット世論操作とデジタル影響工作」(原書房)より

グローバルサウスとノースの対立は国家間の格差が減少し、対等に主張するようになってきたことが背景にあるし、国内での対立は逆に格差の広がりにある。

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