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「共感」地政学 デジタル影響工作はグローバルサウスと共感弱者を狙う

以下のメモは、「データをいろいろ見てみる」氏の「共感格差」(https://shioshio3.hatenablog.com/entry/2022/09/03/191426)を参考&基盤としたものである。興味を持った方はぜひ元の論考もご覧いただきたい。
まだアイデア段階なので備忘録メモと思ってください。

●「簒奪する強者」と、グローバルサウスと「共感弱者」

ウクライナ侵攻を契機に、グローバルノース主流派とグローバルサウスが見て感じている世界がだいぶ異なるという認識が広まってきた。同時に、QAnonなどの陰謀論者や白人至上主義者や反ワクチンなどの反主流派の見ている世界も異なっていることがわかってきた。
グローバルサウスとグローバルノース内部の反主流派が中露を中心とするデジタル影響工作のターゲットであり、成果をあげてきていたことは拙著『ウクライナ侵攻と情報戦』『ネット世論操作とデジタル影響工作』で書いた通りだ。

このふたつに共通するのは、「簒奪する強者」への警戒、不満、反発、憎悪であり、それが時として行動に結びつく。「簒奪する強者」とは歴史的にグローバルサウスから簒奪してきたグローバルノース主流派であり、グローバルノース社会のエスタブリッシュメント(要するにエリート)と「共感強者」である。グローバルノース社会の「共感強者」とは、共感を得やすい人々であり、メディアでよく取り上げられ、多くの人々から共感を得られ、救済の対象になる人々である。「共感格差」の論考によれば大手メディアのツイート回数から、同性愛・LGBT、黒人、移民が、白人や労働者階級・ブルーカラーよりもはるかに注目されていたことがわかる。
これらにエスタブリッシュメントを加えると、QAnonなどの陰謀論者や白人至上主義者などがよくターゲットにする層とぴったり重なる

●デジタル影響工作は、簒奪される弱者(グローバルサウスと共感弱者)の発言を拡散し、承認し、資金を与える

デジタル影響工作は、簒奪される弱者(グローバルサウスと共感弱者)の発言を拡散することで、彼らの意見を承認し、勇気づける。拡散された発言によって弱者のサイトや動画へのアクセスとフォロワーが増加し、広告収入や寄付あるいは物販の収入が増加する。つまりデジタル影響工作は間接的な資金提供の役割を果たす。一石三鳥だ。

●弱者という鉱脈

グローバルサウスと共感弱者の人口は少なくないというか、グローバルサウスの人口は世界の過半数を超えている。フェイスブックの利用者の70%以上がグローバルサウスということはよく知られた事実だ。
フェイスブックに限らず、ネットサービスはグローバルサウスが利用者増とアクセス増加のキイになることを知っていて利用者を拡大してきた。
同様に共感弱者も利用者増とアクセス増加のキイになることをわかっていて、共感強者である同性愛・LGBT、黒人、移民および社会的強者であるエリートを攻撃するグループを優遇してきた。フェイスブックでは広告配信のカテゴリーとして陰謀論やユダヤ人差別があったくらいだ。このへんの事情はうんざりするほど書いたので過去の記事を参照。下記はその一部。

グーグルが広告料金で支援する陰謀論や差別主義者サイトとアメリカのメディアエコシステム
コロナ禍で中国やロシアが広めたQAnonの陰謀論 #非国家アクターメモ 2
フェイスブック・ペーパーの衝撃
フェイスブックはエセ科学に騙されやすい人を狙い撃ちして広告を表示し、グーグルはフェイクへ誘導する広告を配信し、ツイッターはフェイク認定で分断を煽っていた

前掲の「共感格差」の論考ではトランプが共感弱者をターゲットにして成功したことを分析しているが、同様にSNSを始めとするネットサービスも共感弱者をターゲットとして利用者とアクセスを増やしてきたと言える。

●弱者は「味方」を求めている【2023年3月28日追記】

こうした共感弱者は、共感してくれる相手、「味方」を求めているのかもしれない。コロナ禍でロシアはQAnonなどの陰謀論者や白人至上主義などの発言を拡散し、これらのグループの多くは親ロシアとなった。
さらに、ファクトチェックやリテラシー向上などは仕組みはこれらのグループの情報空間には入ってこない。もともとファクトチェックが否定し、違う方向でのリテラシー向上が進んでいるのだ。
したがって、欧米の識者が耳にすると、「誰が信じるんだ?」と思うような発言も、こうしたグループでは比較的すんなりと受け入れられている可能性がある。

最近のロシアのデジタル影響工作は「壁にスパゲティを投げつけてなにがくっつくか見ている(throw-the-spaghetti-at-the-wall-to-see-what-sticks)」アプローチのようになっていると、Metaのセキュリティポリシーの責任者Nathaniel Gleicherは全米ラジオ公共放送の取材に答えた。平たく言うと、雑で適当ということらしい。民間への外注が増加した結果、ノルマをこなせばいいというずさんなやり方の外注が増えたと考えることもできるし、逆にずさんなやり方でもターゲットが共感弱者であれば充分「くっつく」と考えているのかもしれない。

●欠落している弱者側からの視点と報道

こうした問題は「簒奪する強者」の側が人口の多寡や問題の深刻さにかかわらず、大手メディアのアジェンダを決定し、世論を形成していることから悪化してきた。SNSはある意味、これまで「簒奪する強者」が見てこなかった問題を可視化するきっかけを作ったとも言える。そして、中露のデジタル影響工作によって、それがより鮮明になった。
これを契機にして弱者を対等な存在として扱うような社会になるのか、それとも危険分子のような扱いになるかはわからない、現状は後者であり、分断を悪化させ、問題をより深刻にさせる方向に進んでいる。

「共感」地政学はなんとなくつけてみたはったりです。期待して方はすみません。

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