フェイスブック・ペーパーの衝撃

フェイスブック・ペーパーとはフェイスブックから漏洩した一連の内部資料を指す。内部告発者が資料を持ちだし、公開した。公開に当たっては17社が参加するコンソーシアムが組まれ(https://apnews.com/hub/the-facebook-papershttps://twitter.com/MetaNewsroom/status/1450154004730707972)、一大スキャンダルとなった。その過程はコロンビア大学のColumbia Journalism Reviewの下記の記事に詳しい。

Top outlets (sort of) team up to make Facebook’s awful month worse(https://www.cjr.org/the_media_today/facebook_papers_frances_haugen.php)

On the Facebook Papers media strategy(https://www.cjr.org/the_media_today/on-the-facebook-papers-media-strategy.php)

日本ではフェイスブックがそれほどメジャーでないこともあって、報道されたもののあまり大きな話題にはならなかったようだ。

一連のフェイスブック・ペーパー報道で問題視されているのは、主として同社のコンテンツに関わるポリシーと運用である。The Wall Street Journalのフェイスブック・ペーパーのページには17の記事が掲載されているが、その中から特に気になるものをピックアップした。17の他のメディアもおおよそ似たような内容を報道している。

・フェイスブックのコンテンツに関するルールには例外が存在していた(Facebook Says Its Rules Apply to All. Company Documents Reveal a Secret Elite That’s Exempt.、2021年9月13日、https://www.wsj.com/articles/facebook-files-xcheck-zuckerberg-elite-rules-11631541353)。クロスチェックまたはXCheckと呼ばれるプログラムであり、これによって数百万人のVIPが同社のヘイトや暴力の扇動の禁止などのルールの適用を免れていた。

・10代の少女にとってインスタグラムが有害であることを知っていた(Facebook Knows Instagram Is Toxic for Teen Girls, Company Documents Show、2021年9月14日、https://www.wsj.com/articles/facebook-knows-instagram-is-toxic-for-teen-girls-company-documents-show-11631620739)

・フェイスブックはプラットフォームを健全にしようと試みたが、逆により不健全になってしまった(Facebook Tried to Make Its Platform a Healthier Place. It Got Angrier Instead.、2021年9月15日、https://www.wsj.com/articles/facebook-algorithm-change-zuckerberg-11631654215)。フェイスブックは友人や家族との交流を深めてもらうために、プロ(報道機関など)のコンテンツよりも優先するようにアルゴリズムを変更した。その結果、偽情報やヘイトなどセンセーショナルなものが多くなった。この副作用は変更前から内部でも指摘されていたにもかかわらず実行された。

麻薬や人身売買の温床となっていた(Facebook Employees Flag Drug Cartels and Human Traffickers. The Company’s Response Is Weak, Documents Show.、2021年9月16日、https://www.wsj.com/articles/facebook-drug-cartels-human-traffickers-response-is-weak-documents-11631812953)。発展途上国では、麻薬取引、人身売買などの違法行為の温床となっていた。従業員によってこれらが報告されても、対処は不十分だった。同社の元副社長はこうした被害を「ビジネス上のコスト」と語っていた。

・ワクチン接種を勧める妨げになっていた(How Facebook Hobbled Mark Zuckerberg’s Bid to Get America Vaccinated、2021年9月17日、https://www.wsj.com/articles/facebook-mark-zuckerberg-vaccinated-11631880296)。フェイスブックはワクチン接種を推進しようとしていたが、実際には反ワクチン論者の活動の場となってしまっていた。

・AIによってプラットフォームが健全になると同社は考えてきたが、同社のエンジニアは疑問を呈していた(Facebook Says AI Will Clean Up the Platform. Its Own Engineers Have Doubts.、2021年10月17日、https://www.wsj.com/articles/facebook-ai-enforce-rules-engineers-doubtful-artificial-intelligence-11634338184)。長い間、フェイスブックはAIによるコンテンツの判別の有効性を主張してきたが、いまのところヘイトに関しては3~5%、暴力や扇動に関しては0.6%程度しか対応できていない。

・フェイスブックの利用者数はフェイスブック自身もわかっていない(How Many Users Does Facebook Have? The Company Struggles to Figure It Out、2021年10月21日、https://www.wsj.com/articles/how-many-users-does-facebook-have-the-company-struggles-to-figure-it-out-11634846701)。複数のアカウントを持つ利用者が2021年第2四半期では11%と推定されていたが、この数は少なく推定される傾向にあると言う。

・フェイスブックは危険と思われる政治的投稿をその場しのぎの手法で抑制している(Facebook Increasingly Suppresses Political Movements It Deems Dangerous、2021年10月22日、https://www.wsj.com/articles/facebook-suppresses-political-movements-patriot-party-11634937358)。フェイスブックはなんらかの理由で担当者が問題あると判断した政治的活動を集中的にコンテンツ共有を困難にしたり、拡散しにくくする手段を講じて封じ込めた。対象の選び方の理由は公開されず、異議申し立ても許されない。

・インドでは宗教的なヘイトにフェイスブックが利用されている(Facebook Services Are Used to Spread Religious Hatred in India, Internal Documents Show、2021年10月23日、https://www.wsj.com/articles/facebook-services-are-used-to-spread-religious-hatred-in-india-internal-documents-show-11635016354)。インドはフェイスブック利用者が多く、重要な国となっている。しかし、宗教的な対立が激化しており、死者まで出す暴動の一因になっているとも指摘されている。この背景にはインド与党と関係のある2つのグループが反イスラム的な投稿を続けていることがある。

・Facebookの社内チャットボードでは、政治が意思決定の中心になっていることが多い(Facebook’s Internal Chat Boards Show Politics Often at Center of Decision Making、2021年10月24日、https://www.wsj.com/articles/facebook-politics-decision-making-documents-11635100195)。チャットボードでは問題あるコンテンツやグループの扱いに関する議論が行われている。極右サイトに対してルールに則った対処が必要であると従業員が主張しているのにもかかわらず、そうはなっていないことが多い。

・同社の調査によれば、利用者の8人に1人(約3億6,000万人)が、フェイスブックは睡眠、仕事、子育て、人間関係に他のSNSよりも悪影響があると考えていた(Is Facebook Bad for You? It Is for About 360 Million Users, Company Surveys Suggest、2021年11月5日、https://www.wsj.com/articles/facebook-bad-for-you-360-million-users-say-yes-company-documents-facebook-files-11636124681)。

・2018年時点でページトラフィックの約40%がコンテンツを盗用あるいは再利用したサイトに流れていた(Facebook Allows Stolen Content to Flourish, Its Researchers Warned、2021年11月9日、https://www.wsj.com/articles/facebook-stolen-content-copyright-infringement-facebook-files-11636493887)。フェイスブックでアクセスを集めるために効果的な方法は人気のあるページをスクレイプ/アグリゲートし、さらに自分で人気あるコンテンツを再投稿するである。フェイスブックは違法な利用を知っていたが、法的責任を恐れて積極的に対処していなかった。

もともとフェイスブックにはさまざまな問題があり、フェイスブック・ペーパーはその一部を内部資料で詳しく明らかにしたにすぎない。今回のフェイスブック・ペーパーで取り上げられなかった問題としては、無償インターネットサービスFree Basicsの問題や、グローバル・サウスの各国でメディアのエコシステムを支配していることなどがあげられる。これらについては、拙著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』や、『アンチソーシャルメディア Facebookはいかにして「人をつなぐ」メディアから「分断する」メディアになったか』で紹介しているが、まだまだ不十分である。


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