アメリカにおける偽情報対策の後退

アメリカで偽情報対策が後退していることは「アメリカで起きている偽情報対策へのバックラッシュ」などでお伝えした。アメリカでは政府がSNSプラットフォーム、研究者と連絡を撮ることを禁じる仮差し止め命令がルイジアナ州連邦地方裁判所のドーティ判事によって出された。
CIS(Cybersecurity and Infrastructure Security Agency)は禁止の対象に含まれ、CISAは含まれていないが、慎重になっている。
今回、それを後押しするようなことが起きた。ドーティ連邦地裁判事の命令をアメリカの5th Circuitが停止を求めたのだが、ドーティは拒否した。これによって2024年大統領選は、政府、SNSプラットフォーム、研究者が連絡を取れない状態で迎えることになる可能性が高くなった
【追記】その後、7月14日に5th Circuitによって仮差し止め命令は停止された。ただし、状況は最終的な結論がどうなるかはこれからであり、関係諸機関や個人は慎重にならざるを得ない。

また、前の記事にも書いたが、これは共和党による一連の偽情報対策潰しのひとつに過ぎず、関係機関では偽情報対策に慎重にならざるを得ない状況に陥っている。現在行われている偽情報対策への攻撃は個人攻撃までも含んでおり、関係者とのメールのやりとりなどを開示させられることもある。それらの内容を踏まえたうえでの個人へのバッシングを考えると偽情報対策を研究することに尻込みしても不思議ではない。
また、Metaを始めとするSNSプラットフォーム企業には偽情報対策に関わる人員を解雇するなどの動きが出ている。

Color of Change、Free Pressといった市民団体や法律家からはネットの偽情報の蔓延、災害時やパンデミック時において偽情報を抑制することが困難になることなどの懸念が寄せられている。

アメリカでは2024年の偽情報対策が大幅に制限される可能性が高く、どこまで対策が解除されるかはこれからの展開による。現在、見えている範囲では政府機関の活動は事実上ほぼなくなり、研究機関ではバッシングを恐れない一部の研究者だけが研究を続け、SNSプラットフォームは政府の監視がなくなったことからさらに偽情報や陰謀論のプラットフォームに進化するリスクが高まる。

「フィリピンの選挙に見るネット世論操作の進化と対策の停滞」では偽情報対策を妨害するために、「ファクトチェックや偽情報対策への不信感」を植え付けたと書いた。アメリカで起きていることはまさに同じことだ。偽情報対策を政治的動機による検閲行為としている。
偽情報対策の基本は国内と何度も繰り返してきたが、それを怠った結果、大幅な後退を招くことになってしまった。

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参考
Social media injunction unravels plans to protect 2024 elections、https://www.washingtonpost.com/technology/2023/07/08/social-media-injunction-doughty-biden-2024-elections/

5th Circuit pauses order restricting Biden administration’s tech contacts、https://www.washingtonpost.com/technology/2023/07/14/5thcircuit-biden-socialmedia-stay/

Social Media Restrictions on Biden Officials Are Paused in Appeal、https://www.nytimes.com/2023/07/14/technology/biden-social-media-order.html

The Future of Online Speech Shouldn’t Belong to One Trump-Appointed Judge in Louisiana、https://www.nytimes.com/2023/07/13/opinion/federal-judge-biden-social-media.html

We shouldn’t turn disinformation into a constitutional right、https://www.brookings.edu/articles/we-shouldnt-turn-disinformation-into-a-constitutional-right/


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