『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』を読んで、わかったような気になった
『日本の未来、本当に大丈夫なんですか会議』(西田亮介、安田洋祐、日本実業出版社、2024年6月14日)は、社会学者である西田亮介と、経済学者である安田洋祐の対談で、次の4つをテーマに語っている。
1.日本の経済
2.日本の政治
3.日本の教育
4.経済学と社会学について
対談や語ったものをまとめたものは読みやすい分、文章量に対して中身が薄い印象があったが、本書は内容もてんこ盛りで、おすすめだった。
●概要
対談ではあるのだけど、交互に話をするというより、ある程度のボリュームを片方が話して、それに対してもう片方が一言質問や突っ込みを入れて、片方がきちんと答えるという形になっている。そのおかげで、会話形式の冗長さがあまりなく、その分内容がたくさん入っている。
おそらくこれは入門書やガイドブックとして読むのではなく、こういう問題のとらえ方もあるんだ、こんなことが起きているんだ、といった感じでふだんとは違う視点、異なる景色をかいま見るのに適していると思う。見方を変えることで、発想やできることの幅が広がることは時々あるので、この本は世界の見方を変えてみたい人に特におすすめできそうな気がする。
内容は多岐にわたっているので、ひとつずつ紹介してゆくと大変だ。
それぞれ双方の専門領域からの分析なのだが、自分自身が体験したことからの話や実例がしめされていて門外漢にもわかりやすい。門外漢にもわかりやすいということは、なにかを犠牲にしていると思うのだけど、本の構成からしてこれは入門書やガイドブックではなく、ふたりの専門家が日本の現状を整理しているものなのだから網羅性がなくても問題ない。
ゲームの理論やメカニズムデザインといったふつう経済学の話では出てこないけど、きわめて重要な話も紹介されているのがおもしろかった。特に選挙をどのように行うかを考えるメカニズムデザイン、社会的選択理論が重要なのに、これに言及する政治家は日本では見たことがない。
ゲームの理論は言われてもみれば確かにもとは経済学だった。どうしてもフォン・ノイマン>コンピュータが頭に浮かんで来るけど、確かに経済学だった。
個人的には第3会議教育についてが一番参考になった。そもそも教育のことをあまり知らない性なのだけど。受験のことや教員のことなど幅広く問題が整理されてためになった。
読みやすいので、読んで損はない本だと思う。
読み終わった時に感じたのは読んだ内容に関することではなかったのもおもしろい。「平和だな」と感じた。このふたりの話の内容や展開が、まだ日本が元気だった頃の時代を彷彿させて懐かしい。なんでそう感じたのか、考えてみてわかった。
ふたりの話には、諸外国と日本の比較は出てくるけど、国際情勢、紛争といったきな不穏で臭い話は出てこないし、気候変動の話も出てこない。格差の話題は出てくるけど、ピケティやWorld Inequality Database (WID.world)の話は出てこないし、共感格差( https://inods.co.jp/articles/experts/3437/ )で不可視化された人々の話も出てこない。日本のデフォルトが平和ではなくなる時期も近いはずだけど、その話もない。ことさら「台湾有事」や「偽・誤情報の脅威」を煽るのもどうかと思うので、取り上げ方は難しいと思うけど。
世界のデフォルトは「なんでも悪化」と「紛争」にシフトしてきているので、とりあげてもよかったと思うけど、そうなると広がりすぎて莫大な分量になりそう。第2弾に期待すべきかもしれない。テーマと事例は不穏だけど、ふたりが話すと明るく楽しくなりそうなので期待したい。
余談だけど、西田先生はヒゲない方が似合うような気がした。
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