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中国が世界に展開した「大外宣」の実態を暴いた『中国の大プロパガンダ ――各国に親中派がはびこる〝仕組み〟とは?』

『中国の大プロパガンダ ――各国に親中派がはびこる〝仕組み〟とは?』(何清漣、扶桑社新書、2022年3月2日)を拝読した。本書は2019年10月い扶桑社から刊行された書籍を新書化したものである。
あとがきを読むと、もともとは2011年に出るはずだったもので、日本の新書版発行まで10年以上経っていることになる。しかし、その情報の生々しさや新鮮さは衰えていないように感じる。、

中国が世界に対して行っているプロモーション活動=大外宣の実態を暴いたレポート

2011年に完成したあとに封印されてしまったという。封印後もワシントンポスト、フーバー研究所などのレポートで参照されたという。
海外へのプロモーション活動は以前からも行われており、その主たる目的は5つ
・中国の主張を対外的に宣伝すること
・良好な国家イメージを打ち立てること
・海外の中国に対する歪曲報道に反駁すること
・中国周辺の国際環境を改善すること
・外国の政策決定・施行に影響を与えること

古くは1935年に「紅色浸透」のために外宣を行っていた。新華日報などの自国メディアによる宣言活動や外国人記者、軍人、作家、宣教師を招待してもてなすなどした。後者が功を奏して1935年にエドガー・スノーが『中国の赤い星』を発表すると西側社会でヒットし、多くの記者や研究者が中国を訪れ、紹介するようになり、中国共産党ブームが起きた。
本書では各国の記者やメディアを潤沢な資金で手懐けて親中派を育ててゆく様子がありありと描かれている。その手法は奨学金の提供、研修、メディアの買収など多岐にわたり、世界各国に及んでいた。
外宣が本格化した=大外宣となったのは2008年からだという。海外のNGOや商業メディア、海外研究者や学術交流プログラム、在外公館の対外交流プログラムなどさまざまな方法を駆使してプロモーション活動を広げていった。中には中国の研究者と海外著名研究者との共同執筆で書籍を刊行し、アメリカ経由で流通させるなどの方法もあった。
ロビー活動も活発に行われ、懐柔され、洗脳された政治家や政策に影響を持つ関係機関(シンクタンク)が中国政策を推し進めるように仕向けた。
日本ももちろんその対象となっており、『人民中国』の日本版を2万5千部となり、元首相小泉純一郎や国会議員55名も購読者になっている。

本書では香港や台湾の状況も解説しており、個人的には台湾が大外宣に抵抗した経緯が興味深かった。

大外宣がヨーロッパ、アメリカ、ラテンアメリカ、アフリカにまでおよぶさまは壮大であり、恐怖すら覚える

当然こうした活動には抵抗もあり、海外政府からの規制を受けるようになる。しかし、アメリカ民主党は親中派=パンダ・ハガーが多く、特にオバマ政権の間、中国はアメリカでその影響力を拡大することができた。
その後、共和党政権になってから大幅に規制が強化され、中国は敵とみなされ、排除されることになる。
といった一連の過程が本書に濃密に凝縮されており、大変参考になった。ただ、出典が明示されていないことも少なからずあった点と、感情的に中国を攻撃している箇所も多々あった点は気になった。訳者の方が新書版のあとがきで、「グレート・リセット」は世界の左派連盟の大陰謀と断言していたりするので、ちょっとそれも気になった。「グレート・リセット」はどうなのかな? と思うけど、「世界の左派連盟の大陰謀」と根拠の提示もなく断言するのもどうなのかな?

感想 グーグルやフェイスブックは新しい中国なのでは?

歴史的にも地理的にも経済的にも近い関係の国なのに、多くの日本人には中国の姿が見えていないような気がする。本書を読んで初めて知ったことが多かったので、それを痛感した。同時に日本はこういうことに鈍感だし、自分でもやってこなかったのだろうという諦念に襲われた。

本書を読みながら、グーグルやフェイスブックがやっていることが何度も頭に浮かんできた。記者の懐柔やNGOへの資金提供、ロビー活動などかなり似ているように感じるのは私だけではないような気がする。
グーグルやフェイスブックは自由や権利を守るのとは逆方向の事業をおしすすめ、類似のコミュニティを育成しているので、この点も似ている。
本書は中国についての本であるが、グーグルとフェイスブックに読み替えるとこれから起こることや、彼らがやっていることの意味がわかるような気がする。
国際政治学者イアン・ブレマーが指摘したようにグーグルやフェイスブックは地政学上のアクターなのだ。









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