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2024V-Demは民主主義についての知見が満載だった

2024年3月7日、民主主義の指標であるV-Demの新しいレポート「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)が公開された。例年、学ぶことの多いレポートだが、今回は特に重要だったように思う。


●概要

・世界の民主主義の状況について

「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)

2009年以降、ほぼ15年連続で独裁国に住む人口が民主主義を上回っており、1985年まで逆戻りしたことになる。国数では1998年まで逆戻りした。この状況と変化は地域によって大きく異なる

「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)
「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)
「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)

東欧と中央アジアでの後退が激しく、逆にラテンアメリカとカリブ海では好転した。ただし、これは人口で大きな割合を占めるブラジルの変化によるものである。

世界は91の民主主義国家と88の独裁国家で構成されており、独裁国家の人口が世界に占める割合は10年前の48%から71%へと増加している。V-Demでは統治形態を閉鎖独裁国家、選挙独裁国家、選挙民主主義国家、自由民主主義国家の4つに区分しており、選挙独裁国家は世界の人口の44%を占める圧倒的多数となっている。これに対し、選挙民主主義国家と自由民主主義国家は29%に留まる。

民主主義を構成するすべての要素が悪化しており、特に表現の自由、クリーンな選挙、結社の自由の後退が目立つ。2024年に選挙が行われる国のほとんど(31カ国)は民主主義レベルが低下しており、向上している国はごくわずか(3カ国)である。

「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)
「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)

独裁化が42カ国、世界人口の35%(28億人)で進んでおり、その中でも世界人口の18%を占めるインドは独裁国家に住む人口の半数を有している。
民主化が進んでいるのは18カ国、4億人で、人口の半数はブラジルが占めている。

・グレーゾーンとERT

今回のレポートでは選挙独裁国家、選挙民主主義国家の区分の曖昧な領域(誤差の可能性もある)を「グレーゾーン」としてまとめている。グレーゾーンは全体の10%(選挙独裁国家の上限3%、選挙民主主義国家の下限7%の合計)を占めており、これが独裁と民主のどちらになるかでだいぶ見え方は変わってくる。

「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)

また、今回ではERTと呼ばれる手法が導入されている。ごくわずかな数値の変化をとらえ、数年後に変化が蓄積されて明示的な数値となった時に変化としてとらえる方法である。ようするに1年単位のわずかな数値の変動で、統治体制の変化が始まったなどとは言わず、同じ傾向の数値の変動が続き、蓄積される場合に統治体制の変化と呼ぶというもので当たり前のように聞こえるが、V-Demと並んで有名な民主主義指数に限らず、ほとんどの指標ではこうした慎重な評価をしていない。このERTを用いることで統治体制などの変化の開始と終了を判断している。本レポートではこのERTを用いたいくつもの体制変化の分析が行われている。

・スタンドアローン型とベルターン型の体制変化パターン

今回のレポートはERTを用いることで独裁化と、民主主義化の変化で2つのパターンを発見した。比較的安定した時期の後、体制変化の進行が始まるスタンドアローン型と、体制変化の直後に逆方向の変化が起こるベルターン型(独裁化の場合)あるいはUターン型(民主主義化の場合)である。いずれも最長5年の間での変化である。つまり、ベルターンは、民主化の進展が終わってから最長5年以内に独裁化に転じる変化のことで、Uターンは、独裁化が5年以内に民主化へと転換する変化のことである。
下のグラフは独裁化と民主主義化のスタンドアローン型。

「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)
「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)

独裁化がベルターン型、民主主義化がUターン型と呼ばれる理由はグラフを見るとわかりやすい。

「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)
「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)

・BRICS+ vs G7

BRICSが拡大してBRICS+になった結果、世界人口の46%、世界の国土の34%、世界の実質GDPの29%を占めるグループとなった。BRICS+は南アフリカとブラジル以外は独裁主義国で、G7は民主主義国の集まりとなっている。

「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)
「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)

・ネットと民主主義

今回のレポートでは、ネットと民主主義の関係を調べている。具体的には、SNS検閲、インターネットのシャットダウン、国内の偽情報拡散、国外からの偽情報拡散の4つである。
下のグラフは2023年に民主主義のレベルに変化があった国を布置したもので、赤は独裁化、青は民主主義化である。向かって左が国内、右が海外からである。ご覧のようにかなりはっきりと偽情報の悪化と民主主義のレベルには相関があることがわかる(どちらが原因か置いておくとして)。

「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)

・展望

25カ国に独裁化の兆しがある一方、民主主義化の兆しがあるのはわずか9カ国だ。

2024年は世界各国で選挙が行われるが、その多くの国(31カ国)では民主主義レベルが悪化しており、改善しているのは3カ国だけ。

「DEMOCRACY REPORT 2024 Democracy Winning and Losing at the Ballot」(V-Dem、2024年3月7日、https://v-dem.net)

●感想

グレーゾーンとERTの分析がくわわったことでさらに実践的かつ研究の幅が広がった気がする。
もうひとつの代表的民主主義指標の民主主義指数がほとんど進化しいていないのに比べると毎年どんどん進化している。データを全てオープンにして研究者に開放しているのも影響してるんだろうなあ。

今回のV-Demの偽情報と民主主義の関係は、私がやろうと思っていたことにかなり近くて参考になった。全領域線である以上、民主主義の状態を対策の評価尺度にする。

というか、自分でやらないでも待っていればV-Demでレポートでそうな気もしてきた。

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