兵器としてのAI、中国の現状 髙木耕一郎の記事を読んだ
2023年2月7日「Can China Build a World-Class Military Using Artificial Intelligence?」(https://www.realcleardefense.com/articles/2023/02/07/can_china_build_a_world-class_military_using_artificial_intelligence_880120.html)という記事が掲載された。著者は髙木耕一郎で、認知戦など最先端の分野に明るい1等陸佐だ。日本語の記事も英語の記事もいろいろ書いている。*あとで気がついたが、Milterm軍事情報ウォッチに日本語版があった。
髙木耕一郎が毎回指摘するのは下記の2点だ。
・AIは戦闘をドラスティックに変える可能性があり、それを知らない/持たない側はあらがう術がない。
・勝敗は最新技術を持っている方が勝つのではなく、作戦理論によって決まる。過去の戦闘においてより優れた技術を持ちながらも作戦理論が劣っていたために負けた例は多々ある。作戦理論とはひらたく言うと、より効果的な使い方ということだ。
中国の人民解放軍高官や戦略家の論文によると、中国は下記の4分野で人工知能の活用を目指している。
・自律型AI兵器。多数のドローンなどさまざまな自律型AI兵器が作戦行動を行うことを目指している。すでに2022年9月から12月までに中国の無人兵器は台湾の空域に70回も侵入している。
・機械学習による大量の情報処理。中国は中国周辺海域に無人兵器やセンサーのネットワークを構築しており、収集した情報をAIで処理している。また、受信した電波をAIで解析し、妨害電波を最適化する新しい電子戦を模索している。
・AIによる軍事的意思決定の迅速化。ただし、AIの利用により紛争は短時間にエスカレーションする「フラッシュウォー」のリスクもあって、その利用は慎重に行われるだろう。
・認知戦でのAI利用。中国では、認知戦争について活発な議論が行われている。例えば、元陸軍参謀本部副参謀長の斉建国氏は、新世代のAIの開発で優位に立った者は、国家安全保障の生命線である人間の認知をコントロールできるようになると発言している。中国国防大学の李明海氏も、認知戦争が将来の戦争の主戦場となると主張している。
●感想
髙木耕一郎の記事や論文はどれも他ではあまり見ない中国のAIなどについての突っ込んだ議論や多くの資料の紹介があって、とても参考になる。日本語では下記などで読むことができる。余談だが、Milterm軍事情報ウォッチ(https://milterm.com)には認知戦の情報もたくさんあって参考になる。
フォーサイス https://www.fsight.jp/search/author/%25高木耕一郎%25
中国の人工知能による「世界一流」の軍隊建設は成功するのか 【Real Clear Defense】(論文紹介) https://milterm.com/archives/3046
中国の「認知戦」の将来:ウクライナ戦争の教訓 https://milterm.com/archives/2532
今回取り上げた記事では、対策などについては多くは触れていなかったが、他の記事では中国やロシアの試みはうまくゆかない/ゆかせるわけにはいかない、といった論調で結ばれていることが多い。
将来の戦いについての議論を見るたびに、「想像力の限界が将来の戦略を制限する」のだなあと思う。日本にはいまのところ、制限が多いようだ。たとえば、データトラフィッキングで紹介した事実と組み合わせると容易に多様な認知戦の可能性が出てくるし、それを防ぐ方法は現状限られていることもわかる。しかし、そうした議論を見たことはない。
防衛省や外務省は認知戦やデジタル影響工作への対策を考えているようだけど、「想像力の限界が将来の戦略を制限する」ことはあまり考えていないようだ。これでは、技術でまさっても作戦理論で負けることになりかねない。AIを利用した戦いではAI技術者よりも作戦理論を考えられる人材の方が必要なんですよね。でも、その人材は日本にはいないし、育成もしていない気がする。
*「髙木耕一郎」と「高木耕一郎」のふたつの表記があったけど、論文の方に使われている表記を用いました。間違っていたらごめんなさい。
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