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緊縮財政がポピュリズムを台頭させる、という調査結果

2024年5月15日に公開された「Austerity, economic vulnerability, and populism」https://doi.org/10.7910/DVN/1OPRYA )は、財政政策とポピュリズムの台頭の関係を調査した論文である。1990年代以降のヨーロッパにおける財政政策が政治に与える影響を自治体の選挙結果と個人の投票行動の2つをもとに分析している。

「Austerity, economic vulnerability, and populism」( https://doi.org/10.7910/DVN/1OPRYA )

●概要

経済環境の悪化がポピュリストの台頭につながることはよく言われている。この論文ではもう一段掘り下げている。経済の悪化はさまざまな要因で起こり得る。中には国外に端を発することや、自然災害がきっかけになることもあり、不可避なこともある。
この調査研究によると、全ての層が同じようにポピュリストを支持するようになるわけではなく、変化に対して脆弱な層がポピュリスト支持するようになる。具体的にはスキルレベルの低い向上労働者やルーティンワークの労働者などだ。そして、その変化は不可避なものではなく、影響を受けやすい層に対する保護政策によって回避できる。
つまり、ポピュリズムの台頭は経済悪化の際に、影響を受けやすい層に対して適切な保護政策をとれるかどうかという国内政治の課題ということになる。
経済環境の悪化に対して緊縮財政、公的赤字の削減を行うために、脆弱な層へのセーフティネットなどを弱めることがポピュリスト台頭につながっている。これが現在進行形で起きている。

●感想

気候変動およびそれに誘発される変化によって、社会の脆弱な層ほど強い影響を受け、過激になるということは以前から書いてきたが、今回の論文では財政政策によって回避可能であることが示されたのはとても勉強になった。
論文に示されているように、多くの国では経済悪化に直面して、脆弱な層へのサポートを縮小しようとしており、それは日本も例外ではない。それが結果として、ポピュリストの台頭を生むことはより大きなリスクに繋がることになりそうだ。

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