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ACLEDのレポートが暗示する暴力とオルタナ民兵の時代

2022年5月3日、The Armed Conflict Location & Event Data Project (ACLED) は、アメリカ中間選挙に先立っての注意レポートを公開した。

Far-Right Violence and the American Midterm Elections:Early Warning Signs to Monitor Ahead of the Vote
https://acleddata.com/2022/05/03/far-right-violence-and-the-midterm-elections-early-warning-signs-to-monitor-ahead-of-the-vote/

昨年、ACLEDがアメリカ国会議事堂の襲撃前にもオルタナ民兵による暴動の危険性を警告していたことは、以前の記事でも紹介した通りだ。

昨年の合衆国議会議事堂暴動を生んだ暴力のエコシステム「Parler and the Road to the Capitol Attack」
https://note.com/ichi_twnovel/n/nc27a142b81e3

今回のレポートで注意すべき点は下記の通りである。

1.政治的な暴力事件の件数は減少したが、ホワイトナショナリストや白人至上主義者は活発化し、影響力は増大している
2.脅威が高まっているにもかかわらず、法執行機関の介入は減少している
3.ホワイトナショナリストや白人至上主義者は増加しており、デモやオンラインに活動にとどまらず、国境警備やオフラインでの募集活動を拡大している
4.極右グループが関与するデモは武装化していることが多く、州庁舎や立法関連施設に狙う傾向が強まっている
5.政治的暴力や抗議活動以外にも、極右民兵やMSM(過激な社会運動)は、募集活動や訓練演習などの準備行動を活発化させている

くわしくは下記。

1.政治的な暴力事件の件数は減少したが、ホワイトナショナリストや白人至上主義者は活発化し、影響力は増大している

2021年1月の国会議事堂襲撃事件後、米国における政治的暴力の総件数は減少した。これは事件を契機に監視の目が厳しくなったためである。議事堂襲撃に参加した極右グループなどの多くは、新しい環境に適応していった。
プラウドボーイズのようなもっとも活発で暴力的なグループはより過激になった。プラウドボーイズの活動は2021年に全体で15%増加し、暴力的なデモへの関与は57%上昇した。プラウドボーイズが関与するデモ全体の約25%が暴力をともなっていた。2020年の18%に対して、7%の増加である。民兵やMSMは、より広範な右派デモへの関与も増やしており、より広い右派活動家ネットワーク内での勧誘や連携を生み出し、暴力のリスクが増幅されている。民兵やMSMが右派のデモに関与すると、暴力や破壊行為に発展する確率が12倍高くなる。
主要なグループと活動については下図の通り。

2.脅威が高まっているにもかかわらず、法執行機関の介入は減少している

極右民兵やMSMが関与するデモが暴力的になる割合は11%以上だが、極右団体が関与するデモへの法執行機関の介入は減少を続けている。2020年、極右民兵やMSMが関与するデモのうち、当局が関与したのは8%で、2021年には7%未満に減少した。2022年現在、極右民兵やMSMが関与するデモのうち、警察が関与したのは5%未満となっている。
特に対立する2つのグループが参加するデモはより暴力的になっており、極右民兵やMSMが存在すれば、暴力が勃発するリスクはさらに高くなる。対立しているグループが参加するデモが暴力的・破壊的になる確率は、通常のデモの5倍であり、暴力の割合は時間とともに増加している。この割合と増加は、極右民兵やMSMが関与した場合、さらに高くなる。2021年には、極右民兵やMSMが関与する反対デモの3分の1が暴力的または破壊的なものになり、2020年の5分の1から上昇した。

3.ホワイトナショナリストや白人至上主義者は増加しており、デモやオンラインに活動にとどまらず、国境警備やオフラインでの募集活動を拡大している

ホワイトナショナリストや白人至上主義者の活動は増加傾向にあり、2021年後半には民兵やMSMが関与するデモの大半を占め、オフラインでのプロパガンダや国境警戒主義を煽っている。2021年は、白人至上主義や白人国家主義を支持する極右民兵やMSMが関与するデモの割合が大きく増加した。白人至上主義者とホワイトナショナリストの活動は、デモだけでなく、メキシコとの国境での反移民活動を含むオフラインの宣伝活動や自警活動の増加という形で2022年に入っても続いている。

4.極右グループが関与するデモは武装化していることが多く、州庁舎や立法関連施設に狙う傾向が強まっている

極右グループが関与するデモは武装化していることが多く、こうした武装デモは州庁舎や立法施設に集中する傾向が強まっている。極右の民兵やMSMが武装デモに参加する割合は、他のデモに比べて6倍も暴力的・破壊的なものになる。スリー・パーセンターズやブーガルー・ボーイズなどのグループは、武装デモ、特に州議事堂のような立法施設での武装デモに関与するトップ・アクターである。昨年は、ミシガンやアリゾナのような知事選が争われた州を含め、立法施設で武装デモが行われる傾向が強かった。2020年以降、ランシングとフェニックスの州庁舎では、全米のどの州議事堂よりも多くの武装デモが発生している。

5.政治的暴力や抗議活動以外にも、極右民兵やMSM(過激な社会運動)は、募集活動や訓練演習などの準備行動を活発化させている

極右民兵やMSMは、募集活動や訓練演習などの準備行動を活発化させている。募集イベントは2021年に大幅に増加し、特にアリゾナ州などでは、オースキーパーズの分派であるヤヴァパイ郡準備チーム(YCPT)が活動を活発化させた。同時に、アメリカン・コンティンジェンシーやパトリオット・フロントなどのグループが、2倍の州に訓練活動を拡大したことで、全国的に訓練演習が2倍以上に増加した。これらの傾向は2022年に入っても続いている。

●感想

過激なグループと民兵の組み合わせは、悪夢のような暴力をもたらすことは昨年1月の事件でよくわかった。今回、ご紹介したレポートではホワイトナショナリストや白人至上主義者の増加が指摘されていたが、影響力の強いはおそらく時とともに移り変わってゆくのだろう。しかし、影響力と存在感が増え続けるのは変わらないような気がする。
2021年1月のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件を「合法的な政治的言説(legitimate political discourse)」であり、同事件を議会が調査するのは「一般市民への迫害」であると圧倒的多数で決議したことからわかるように、これはもはや我々の社会の一部、それもかなり大きな割合を占める存在となっている。

RNC votes to condemn Cheney, Kinzinger for serving on House committee investigating Jan. 6 attack on the Capitol by pro-Trump mob(Washington Post、2022年2月3日、https://www.washingtonpost.com/nation/2022/02/03/rnc-cheney-trump/)

あの事件を契機に減少した活動件数も再び増加の兆しが見えている。

このレポートで取り上げられたようなグループ=自分たちなりの真実に基づいて武装し、活動するグループを便宜上オルタナ民兵と呼ぶことにしよう。
国際政治学者のイアン・ブレマーは、グーグルやフェイスブックを地政学上のアクターと呼んだが、私はオルタナ民兵も地政学上のアクターになりつつあると感じている。その理由は簡単で世界の趨勢に影響を与えるからである。彼らは軍隊ではない。特定の国家に支援されているわけでもない。しかし、軍隊ではなく、国家の支援がないから対応が難しいのである。そのことは法執行機関の介入が減少していることからもわかる。閾値以下のサイバー攻撃や、ネット世論操作への対応が難しいように、オルタナ民兵組織への対応も困難なのだ。

オルタナ民兵は世界中、どこの国にも存在しうるし、さまざまな方法で多額の資金を得ることができる。グーグルを始めとする企業が、広告収入という形で資金を供給していることは何度もご紹介した。

グーグルが広告料金で支援する陰謀論や差別主義者サイトとアメリカのメディアエコシステム
https://note.com/ichi_twnovel/n/n197db671b2a6


それ以外にネットで寄付を積もることもできる。規模の大きなオルタナ民兵組織なら数億くらいの寄付は簡単に集まる。
行動のオプションも平和的な抗議活動、ネット世論操作、選挙への介入、暴動、テロなど豊富である。そして基本的には軍人でもテロリストでもない、一般市民なので人権に充分配慮した対応が必要になる。
昨年1月6日の暴動でツイッターから排除されても、間接的にツイッターを利用することで影響力を維持できることもわかっている=彼らの影響力を排除するのは非常に難しいのだ。そしてフェイスブックとグーグルは排除する気はないらしい。もはやオルタナ民兵グループはSNSのエコシステムに組み込まれていると考えた方がよそうだ。彼らを排除すればエコシステム全体に大きな経済的損害や混乱が発生する。
今年を含めた数年間でさらに活動範囲と影響力を増加させ、気がついた時には日常生活にも大きな影響を与える存在となる可能性が高い。
もうひとつ気になるのは下記だ。

世界各地で同時発生した反ワクチンから親ロ発言への転換
https://note.com/ichi_twnovel/n/nce3b3fc468a7


タリバンがアフガニスタンを奪取して、オルタナ民兵が歓喜したことを記事で書いた。あれは彼らにとっての「イマジン」だった。夢じゃない、そう思っているのは君だけじゃない、みんなで集まればきっと実現できる。オルタナ民兵グループは、果てしない夢を見ている。

関連書籍
『ウクライナ侵攻と情報戦』 (一田和樹、扶桑社新書)2022年7月2日刊行
『近未来戦の核心サイバー戦-情報大国ロシアの全貌 』(佐々木孝博、扶桑社、2021年10月22日)
『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(一田和樹、角川新書、2018年11月10日)
『新しい世界を生きるためのサイバー社会用語集』(一田和樹、原書房、2020年4月20日)
『最新! 世界の常識検定』(一田和樹、集英社、2021年11月19日)


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