非自由主義(Illiberalism)がもたらす世界秩序の危機

Foreign Affairs1/2月号に「The Real Crisis of Global Order Illiberalism on the Rise」(https://www.foreignaffairs.com/articles/world/2021-12-14/illiberalism-real-crisis-global-order)という記事が掲載された。権威主義国家が台頭しているのに、自由主義陣営は有効な対策を打てていないという記事で、ほとんどはこれまで何度も言われてきたことの繰り返しだが、切実になってきているような気がする。

●要旨
アメリカではジョー・バイデンが大統領に就任した直後から「21世紀における民主主義の有用性と独裁国家との戦い」を語っているので、この手の議論は増えているのだろう。民主主義をふたたび世界の主流にしたい、という気持ちは関係者で共有されているのだが、具体的な内容や方法論は共有されていない。典型的なのは民主党と共和党では問題意識がかなり違うようだ。また、場当たり的に対処すると非自由主義的な施策を行うことになりかねない

以前の冷戦時代と異なり、現在は自由主義国と権威主義国は経済、文化、ネットで密接に結びついており、切り離すことは難しくなっている。ひとつの変化が他の国広がる速度も速くなっている。その結果、世界に向けて「解放」的な自由主義国は、世界に向けて都合のよい時だけ開放的な権威主義国よりも不利な立場に立たされる。この非対称的開放性を利用して権威主義国は自由主義国の市場や技術などに自由にアクセスし、利用できる。その一方で自由主義国は権威主義国には自由にアクセスできない。

ネットの世界も同様だ。記事ではアップルとグーグルが2021年9月のロシア議会選挙の直前に圧力に屈して、反対候補のアプリを削除したことが書かれている。権威主義国では、必要に応じて情報統制を行うことができるが、自由主義国ではそれはできないし、もしやればそれおを暴露されて混乱が起きる。政府による言論統制や監視活動についても同様だ

こうした非対称性は自由主義国家に、非自由主義的政策を採らせる圧力となる。たとえば、他国に対する軍事的手段による民主主義化の推進、国境管理の厳格化、移民の制限、難民保護の正当性のゆらぎ、政治外交的理由からの経済制裁などである。これらはポピュリズムに合致するため、国民の支持を受けやすい。そのため自由主義や民主主義を標榜しながら、権威主義的な政策を掲げることがアメリカでは広まっている。

また、LGBTQの権利、男女平等、移民の権利など、現代のリベラルな価値観への反発は自由主義国でも根強く、近年広がっている国内の汚職問題も自由主義を脅かす要因となっている。

こうしたことを背景に反動的な勢力が自由主義国の国内で力を増しつつある。その例としてハンガリーを紹介している。ハンガリービクトル・オルバン首相は非自由主義的なことで知られているが、世界の右派や保守派から支持を受けており、ハンガリーは民主主義のモデルであると語っている

自由主義は内部から崩壊しつつあるのだ。

ここで記事はアメリカは第二次世界大戦の時にそうだったように、再び戦う必要があると書いているのですが、その一方で難しいだろうとも言っている。つまり具体的な解決策は見つかっていない

●感想
すでに国際的に自由主義国あるいは民主主義国が少数派に転落したことを認めている記事だった。そして、現在の非対称性が続く限り、劣位を解消することは難しい。しかし、非対称性を対称にすることは権威主義体制に移行することに他ならないというジレンマがある。以前、何度か記事にしたことがある。

世界でもっとも多い統治形態は民主主義の理念を掲げる独裁国家だったhttps://www.newsweekjapan.jp/ichida/2021/03/post-22.php

鎖国化する経済とサイバー安全保障https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2021/05/3-1.php

新疆ウイグル問題が暗示する民主主義体制の崩壊......自壊する民主主義国家https://www.newsweekjapan.jp/ichida/2020/11/post-14.php

そもそもの問題は自由主義や民主主義が最初から矛盾をはらんだものになっており、それが露呈しているだけの話なのだ。だからきちんと設計し直さなければうまく運営できない。しかし、これまで民主主義や自由主義を標榜する国で、設計し直すことを試みた国は主要国には存在しない

したがって権威主義国に対抗するには自らも権威主義国になるしかない。もっとも民主主義を標榜する権威主義国なので、その違いは国民でも意識しないだろう。

●民主主義を考えるための本
『民主主義とは何か』(講談社現代新書、2020年10月21日)
『デモクラシーとは何か』(岩波新書、2001年5月28日)

さらにいくつか紹介してます> 民主主義の現在 民主主義を知るための本


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