狭間の喫茶店。2、私とマスターと少女。



からんからんからん。
鐘の音色と共に、扉が開く。

「いらっしゃい。」

店の奥から聞こえてくる声。
聞き覚えのあるような、ないような。
優しく心に響く。

「マスター!ひなたちゃんきたよ。」

「ん?ひなたちゃん?」

「うん。」

小走りで来たマスター。
どこかで会ったような、なかったよな。

「ひなたちゃん!?」

すごい顔をしている。

「ひなたちゃんでしょ?」
「あ、はい。」
「ほら、ひなたちゃん!」

私の名前を連呼する女の子。

「ひなちゃん。どうやって此処へ!?」
「そこでゴロゴロしてたよ。」
「ゴロゴロ!?」
「そう!私みたいに!へへ!」

なにやら、此処へ訪れること自体変らしい。

「あの・・・。私のこと知っているんですか?」

恐る恐る聞いてみた。

「うーん。知っているんだけども、僕の口からは直接伝えられないんだ。ごめんね。」
「はぁ。」
「ごーめんねー!」

なんだかよく分からない。

「さて、どうしたもんか。」

「私、どうやってここまで来たか分からないんです。っていうか、帰る場所があるのかわかないし、そもそも私、名前しか自分のことわからないんですよね。はは。」

「あーそうなのか、そうなのか。」

マスターは眉間に皺を寄せ、腕を組みながら片方の手で自分の顎を触っている。
すごく悩んでいるようだ。
どうやら困らせたらしい。
対照的に女の子は笑顔でフラフラ踊っている。
かわいいな。

「うーん。此処へ来たってことは、そういうことだから、えーと、うーん。むむむむ。」

「あの、なんだかごめんなさい。」

「いや、いやいやいや、別にひなちゃんは悪くないよ。大丈夫だよ。大丈夫。ちょっとコーヒーでも飲んで落ち着こうか。さあ、入って。」

そういって、マスターはカウンター席へ案内してくれた。

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