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甲野善紀「古の武術から学ぶ老境との向き合い方」

・本書は、1949年生まれで2021年時点で72歳の武術研究者である著者が「人間にとっての自然とは」「人が生きているとはどういうことか」を考えた1冊。

著者は現在、72歳であるが、プロボクサー相手でも、すぐに反応できないような突きを出すことができるようになったり、相手が当たっても怪我の恐れがないソフト竹刀などをもって遠慮なく打ち込んでくるのをギリギリで躱すこともできるようになってきた。これらの動きは20代、30代の頃の著者では絶対に不可能であったとのこと。もしも、20代、30代の頃の著者が72歳の著者に会ったら、一晩中眠れないほど興奮して驚いているそう。このようなことができるようになったのは、自分なりに研究を重ねて、だんだんといろいろなことがわかってきたから。ずっと研究していれば、「人間はどういう感覚を、どう使って動くのか」といったことが次第にわかってきて、技も月単位、時には週単位に改良されていく。

・視力や走行力、跳躍力といった単純な運動能力、身体の機能は若い頃に比べて衰えたが、武術の技は今が一番である。大事なのは、単なる力の強さや反射能力といったことではなく、身体の使い方であり、身体の運用を行なう、といった研究工夫を常にし続けることである。

・著者は自分の動きを「これでいい」と満足せず、改良を日々重ねている。改良を重ねている理由は、「自分がまだまだ未熟である」と深く実感しているから。武術は「相手に技が利くかどうか」ということがすべてに優先する。どんな場合でも「技が利かない」という事実は、しっかりと受け止めなければならない。著者は技が利けば、「できるようになった」と嬉しくは思うが、「まだまだこんなものではない」「これはさらに深い原理への手がかりにすぎない」と、常に思い続けている。今の状態に満足し、そこにかじりついていたら、いつまでも今のまま、というより、レベルが下がってしまう。武術の世界では、著者などはるかに及ばない凄まじい技を支えた人が歴史上、数多く存在していて、今でもわずかだが、常識を超えた技を発揮される方が存在する。そういう理由から、著者は常に「こんなところで足踏みしてはいられない」と思っている。

本書では、「著者が武術を始めたきっかけ」「情熱の持ち方」「身体の感覚を取り戻すにはどうすればよいか」「転倒から身を守る転び方、重い荷物を軽く持ち上げる技、心の整え方など人生を助けてくれる技の紹介」「日常の気づきを生活に活かす方法」「死ぬとのときまでに納得して生きるにはどうすればいいか」など、武術を通じて人間にとっての「自然に生きるとはなにか」について問うた内容となっている。

著者曰く、「本書が生きている」ということの不思議さや精妙さをあらためて感じ取り、自分自身の内側を掘って、「人が人として生きている」ということを見つめ直す一つのきっかけになれば、著者としてこの上ない喜び」とのこと。この本が、あなたにとっての「生きるとはなにか」を考えるきっかけになれば幸いである。

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