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なりきりチャットに人生を捧げていた大人の思い出話16

毎日、気持ちが憂鬱だった。
ラインハルトと話すのが辛くて仕方がなかった。

でも、私が傍にいないと死んじゃうんだ。
それだけは嫌だと自分に言い聞かせた。

気分転換をする為に、今までいたサイトとは全く別の世界観である「現代異能もの」のなりきりチャットに登録してみた。
なりきりチャットが苦痛で、気を紛らわせる為になりきりチャットをする。

その異常性に気づけないほど私もおかしくなっていた。

「現代異能もの」のサイトは、今までいた盛況なサイトとはうって変わって人が少なく、数日の間に2、3人しか見かけなかったほどだ。

私は今まで底抜けに明るいキャラしか演じてこなかったが、少し影のあるキャラクターを作ってサイトにいる数人と話した。
影のあるキャラクターを演じるのは初めてだったが、そんなキャラクターの悩みを受け止めてくれる人たちが多く

良い意味での

「アットホームな雰囲気」

をこのサイトに感じ取っていた。

しばらくはこの「現代異能もの」サイトに顔を出しつつも、ラインハルトの機嫌を損ねないように立ち回る日々が続く。
もちろん、ラインハルト本人にはこのサイトのことは秘密にしていた。

ある日「現代異能もの」のサイトで一人のキャラクターから「付き合ってほしい」と言われた。
そう言えば、自分から告白してばかりで人から告白されることなんてあまりなかったなあ………と思いつつも私はこの申し出にOKをした。

このサイトの緩やかな雰囲気や、一週間に一度くらい恋人のキャラクターと話す頻度が今の自分には合っている気がしたし、何より、神経がすり減った自分の癒しのような存在になっていた。

一方、ラインハルトからのメールの頻度や束縛は、よりいっそう強いものになっていった。
私はそれに対して度々苦言を入れていたが、聞き入れてはもらえなかった。


そして、ある日ーー
私はアルバイト中に倒れた。

突然の悪寒と腹痛、それに嘔吐。
病院に行くとすぐに入院を勧められた。

診断名は「ストレス性の胃腸炎」
かなりひどいものらしく、一週間は入院が必要とのことだった。

あまりにも急な入院で、携帯電話を持ってこなかった。
ラインハルトから大量のメールが届いてるんだろうな………

そのことを考えると胃がキリキリと痛んだ。

家族がお見舞いに来てくれたが、携帯電話は持ってこないでほしいと頼んだ。
今ラインハルトからのメールを見たらより病状が悪化するだろう。

入院している一週間だけでも、何もない生活を送りたい。

「あなた、忘れてるかもしれないけど今日20歳の誕生日だよ。おめでとう。
でも、こんなことになっちゃうなんてねえ…日頃の不摂生が祟ったのよ。」

お見舞いに来てくれた母親の言葉にハッとする。

そういえば………そうだった。

20歳の誕生日という、一生に一度しかないイベントを、まさか病院で過ごすことになるなんて。
しかも、これは完全に自業自得だ。

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