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なりきりチャットに人生を捧げていた大人の思い出話14

12月。
オンラインゲームの街中には大きなクリスマスツリーが飾られていた。
ゲーム専用のクリスマスソングが流れ、季節限定アイテムがもらえるイベントが盛況だ。

ラインハルトと二人でイベントをやった後、クリスマスツリーの下に座る。
「こうしてるとクリスマスデートしてるみたい」
ラインハルトの言葉にはそうだね、と頷いた。

「クリスマス、東京行くよ。」
突然の言葉に私は驚いた。
ラインハルトは地方に住んでいて、東京に来るまでには何時間もかかる。

しかも……

クリスマスは明後日なのだ。

「えっ!?急にどうしたの?」
「会って欲しいの。もう新幹線のチケットは取ったよ。」

嬉しいというよりも、背筋が凍る思いがした。

私の返答を待たずに、新幹線のチケットを取ったということだろうか。

ここで私が

「会わない」
とか
「その日は予定があるから」

と言ったらどうなってしまうのだろうか……

「いいよね?」

ラインハルトの言葉に

「わかった…………」

と返した。

ラインハルトのプレイヤーは、同人イベントで東京に来た時に何度か会ったことはある。
しかし、クリスマスに会ったところで一体何をすればいいのか………。

クリスマス前日、ラインハルトの実の兄から「オンラインゲーム上でお話しませんか?」とメッセージが届いた。
一体何の用事だろう、と思いつつも私が指定された場所へ向かうと
そこには………

「紅魔の剣」

が置かれていた。

「差し上げます」
と、ラインハルトの兄は言った。
「紅魔の剣!?確かに私が以前から欲しかったものですが………なぜ急に?」

「妹といつも一緒にいてくれてありがとう、これはそのお礼です。そして、これからもよろしくお願いします」

「待ってください、それはどういう意味でしょうか?確かに私はラインハルトとは仲良くしています。
でも………、聞かされていないんですか?私が実は女だってこと」

「知ってますよ、妹がいつも話していますから。でも、あなたのことを話す妹はとても楽しそうだ。
あなたになら、妹を任せられると本気で思っています。」

何を言っているのだろうか?
任せる?
まだ成人もしていない自分に、10歳以上も年上の女性を………?
親の金で学校へ行き、親の金で食べる。
何の責任能力もない自分に、何ができるというのだろうか。

「受け取れません………。
それに私はまだ何の責任能力もない子供です。ごめんなさい」

「そうですか、残念だ。でも、妹とはこれからも仲良くしてやってください。お願いします」

「はい………」

言いようのない恐ろしさを抱え、その年のクリスマスを迎えることになる。
私はラインハルトのプレイヤーに会うために、新宿へと向かった。

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