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【二次創作小説】 あの子との距離② 〜英フェス

こちらは「太陽よりも眩しい星」の二次創作小説です。
過去のお話はこちら。
①研修旅行→


研修旅行で初めて頭をよぎったいやな予感は、「私も好き」の破壊力に吹き飛ばされて忘れてた。
友達宣言があんなに可愛いなんて反則だ。


北高には7月に英語フェスティバル、英フェスがある。
英語劇を全校発表するらしい。

そこで初めて、鮎川がめちゃくちゃ勉強できることを知った。
入学式で挨拶したことは覚えてたけど、挨拶は入試1位の担当なんだって。
英語の発音も流暢で、先生が無茶振りした脚本も一晩で書き上げてきた。

「すげー…」

思わず声が漏れる。
勉強ができて落ち着いてておとなっぽい。
鮎川は俺が目指す「かっこいい頼れる男」のイメージそのものだ。

2月まで北高の合格圏外だった俺とはおおちがい。
何とか合格はできたけど、英語は今も苦手だ。

なのに、俺は英フェスのライオン役に決まってしまった。
音読、みんなに笑われるくらいヘタだったのに、なんで??

岩田と鮎川が「一緒にがんばろう!」って言ってくれたけど…。
はー、気が重い。

岩田は鮎川とプロンプターをやる。
ふたりとも、すごく聞き取りやすく台詞を教えてくれる。
脚本を見ながらだけど、つっかかったりしないし流暢で、中身が頭に入ってることが伝わってくる。
悔しいけど、ふたりが背中合わせに並ぶ姿はしっくりくる。

俺は今日も台詞を忘れてつっかえてばかり。
相変わらず発音もひどい。

落ち込んでいる俺から少し離れたところで、岩田と鮎川が話す声が聞こえてくる。

「あれ?私たちの本だけ光ってる?」
「プロンプターのはつるつる加工しといた。先生が2冊だけやっていいって言ってくれたから」
「水に強いから傘にも使える」
「え、つよ!!」

岩田の楽しそうな声を聴いて、研修旅行で感じたいやな予感がじわじわとよみがえる。

あのあと、岩田には好きな人がいることを知った。
俺が見てきた限り、小中には岩田ととくべつ親しい男はいなかったはずだ。

…ということは、もしかして……。

いや、本人が「恋愛対象と思われてない感じ」と言ってたし、余計なことを考える余裕はない。
まず俺が成長しなきゃ。 

このあと、俺は岩田にお願いして、地元のはなぞの公園で練習に付き合ってもらうことになった。

待ち合わせの時、岩田がつるつる加工された脚本を傘代わりにしてるのを見て、とっさに自分のジャージを頭にかぶせたのは、岩田に風邪をひいてほしくなかったからで。
鮎川が用意したものを使ってほしくなかったから、というわけではない。


英フェスでは苦手な英語をけっこうがんばれたし、岩田と地元の公園で会えたし、夏休みの映画の約束までできて、ずいぶん進展した気がする。

でもいやなことも多かった。
まず3年のヤンキーみたいな先輩たちがステージの上の小野寺のスカートの中を盗撮しようとした。
岩田が突然ステージに出てきて落ちて、どうしたんだろうと思ってたら、あいつらから小野寺を守ってた。

英フェス後の廊下で「あのでかいのさえいなけりゃ…」と話すのを聞いて、思わずカッとなって手が出てしまった。
あいつら、岩田にも小野寺にもサイテーだ。

そしたら、学校で問題にされかけた。
うまく反論できずにいるところを岩田に見られたあげく、3年にいる従姉の昴ちゃんがしゃしゃり出てきて。
先生に説明してくれたのは助かったけど、岩田の前で「子供だなぁ、光輝は」ってダメ押し。
いじわるなところは昔のまんまだ。

岩田の気が変わらないようにその場で慌てて映画の約束を念押ししたけど、かっこ悪かっただろうな…。はー。

極めつけは打ち上げだ。
俺はサッカー部の試合があって1時間遅れて到着したんだけど、岩田と鮎川が並んで座ってて、何だか訳ありの雰囲気だった。

「何かあったの?」と訊いたけど、岩田に「お肉とってくる!」とごまかされちゃったし。

ふたりの服装も似てて、ちょっとペアルックみたいな感じ。
俺は試合終わりでTシャツ半パンだし、そもそも私服もスポーツウェアしか持ってない。

焼き肉の間、岩田はずっと鮎川とふたりで話してたみたいだ。
いつもみたいにこっそり聞き耳を立てたけど、にぎやかすぎて何も聞こえなかった。

打ち上げの終わり頃、優心が岩田と鮎川に
「いんじゃね?ふたりつきあっちゃえば?夫婦感あるよ」
と言い出した。

普段ならやめろよとツッコむところだが、今回はそんな余裕もなく、思わず横目で岩田の反応を見る。

「そういうイジり方、免疫ないから困る。やめて」
岩田は珍しく感情を出して怒って、優心がたじたじしていた。

いつもの岩田なら笑顔でやり過ごすのに。

いやな予感がだんだんリアルになってきた感じがする。
暑いのに指先がひんやりした。

いやいやいやいや。
大丈夫、俺とは映画の約束をした。
大丈夫。大丈夫。

帰りの電車は同じになるよう、意識して帰った。
別々に乗っても同じ車両なら話しかけやすい。
15分はふたりで話せる。

狙いどおり、乗り換え駅で友達がみんないなくなってふたりになれた。

「みんなすごい騒いでたね、岩田の声とか全然俺のとこまで聞こえんかった」

「え…」

あ、やばい。聞き耳立ててたのバレる。
「あ、見て!岩田」

ちょうどよく、観に行く予定のスパイDマンの映画ポスターが地下鉄の車内にあった。
岩田にポスターを指差す。
共通の話題があるっていい。

「神城は…この映画シリーズのどこがすき?」

思いがけない質問に思わず言いよどむ。
「……え…、どこ?……考えたことなかった…」

えーと、これ言っていいかな。
大丈夫だよな。

「……あの映画、主人公弱いけど強くなるじゃん」
「…俺も強くなって……、…好きな子を守りたい……みたいな」

岩田のことだよ。
って、いつかちゃんと言えたらいいな。

そのあとは保健室に来てくれた時の話をした。
お礼を言おうと思ってたのに、昴ちゃんの話になって岩田が「ちょっと憧れる」と言い出したのでびっくりした。

「いやあの人めっちゃいじわるだよ!?すごいいじってくるからね!?」
「だから岩田は憧れなくていい、そのままでいて!!」
「あ…うん、わかった」

最後は勢いでうっかり告白っぽくなった。
でも岩田はめっちゃにぶいからこれくらいじゃ伝わらない。

俺はずっと気になってたことを訊くことにした。
質問の意図をオブラートに包んで、表情がばれないように気をつける。

「焼肉の時、映画の話しようとしたんだけど…岩田、遠くで鮎川と話してたから」
「俺鮎川と話ゆっくりしたことないんだけど」
「岩田何話してたの?」

思わず早口になってしまった。
言い訳くさかったかな…。
岩田はなぜか言い淀む。

「…鮎川くんが寮だとか…そーゆー…」
「私鮎川くんと似てないと思ってたけど……すごいわかるって思うとこがあって……」

俺には話せない悩み相談でもしてたのかな。
めっちゃ距離近づいてんじゃん…。
迷ったけど、思いきってもう一歩踏み込んでみる。

「…映画、みんなでいったほうがよかった?」

「えっ…ふ、ふたりが良かった」

やった!!!
「よかった、俺も」

鮎川と付き合ったりはしてないみたいだ。
まだチャンスはある。

もうすぐ最寄り駅というところで思いついた。

「この曲線部すごい揺れるじゃん」
「耐えたりしなかった?小学校ん時とか」
「あえてどこもつかまんないで…女子はやらないか」
「やったことあるよ」
「やる?」

両手を離して揺れに耐える。
岩田が笑ってる。俺も笑う。
俺、こんな時間が大好きだ。
ずっとずっと続いてほしいな。

(続く)


すみません、まだまだ続きます。
よろしければ次もご覧ください。

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