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【二次創作小説】 きらきら瞬く星のようなひと

「お前身長どうだった?また伸びてた?」
「光輝、見せろよー」
「俺、職員室行くわ!勝手に見てていいよ」

友達に笑いながら返事をして、いつもよりもざわめく教室をあとにして廊下へ出た。

健康診断は嬉しい時間の一つだ。
「ああ俺、これだけ背が伸びたんだな」と実感する。

逆に英語は地獄だ。
自分のできなさを突きつけられる。
でもまぁ、めげずにがんばるしかないんだけど。

幼稚園までは本当に小さかった。
好き嫌いも多くて貧弱で。
小学校の入学式で出会った親切な女の子が、大嫌いな給食の牛乳を飲んでくれると言ってくれたのを素直に喜んでた。
そりゃ身長も伸びないわけだ。

小3になった頃から、俺は牛乳が飲めるようになった。
牛乳を飲まなきゃ小さいままだと思ったから頑張った。
でも、親切な女の子はいつもとてもおいしそうに給食の牛乳を飲むから、結局卒業するまで言い出せなかった。

給食で飲まないぶん、家ではたくさん飲むようにした。
そうしたら、小6で身長が伸びはじめて、今ではとうとう180センチの大台に乗った。
中3でこの身長なら、まあまあだと思う。
ようやくひとつ目標に近づけた。

その目標というのは、…

バターン!
突然、目の前に教室のドアが倒れてきた。
この教室は会議室で、今日は健診会場になっている。
どうやら中から外れてしまったようだ。

ドアの上には、例の親切な女の子、朔英が倒れている。

「大丈夫?岩田」

俺は手を差し出した。
昔は朔英と呼んでいたけど、今も心のなかではそう呼んでいるけど、中学校では男女は名字で呼び合っているからそれに倣っている。

「あ、うん、平気!」
朔英は俺の差し出した手は取らず、笑顔を見せて自分で起き上がった。

朔英が座ったまま周りをキョロキョロしてるのを見て、何かを探しているのに気づいた。
すぐ近くに落ちていた紙を拾って渡す。

身長、体重の文字が見えて、拾ったのが健康診断カードだとわかり、思わず頬が赤くなる。
「何も見てないから」

朔英は真っ赤になり「ありがとう!」と言って健康診断カードを受け取ると、すぐに会議室に戻ってしまった。
内側から器用にドアをはめ直しているようだ。
朔英は何でもできる。

俺はこっそり、握ってもらえなかった自分の手を見つめてため息をつく。
俺、こんなに大きくなったんだけどな。
まだそんなに頼りないかなぁ。

小学校6年間、ほぼずっと隣の席だった岩田朔英は、中学生になってクラスが離れ、俺から離れた途端に花開くようにきれいになった。

もともとかわいかったし大人っぽかったけど、今はもう大人の女性という雰囲気がする。

いつも隣で楽しそうに笑っていたのに、急に手が届かない感じになった。

もともと、朔英は俺と違って背が高くて、勉強も運動も図工もできて、それに誰にでもめちゃくちゃ親切だ。
俺は何度朔英に助けてもらったかわからない。
俺から見たら完璧すぎるくらい完璧なのに、いつも謙虚でほんとうにえらい。

朔英はかわいい。
すごくしっかり者なのに、ちょっとドジなところもある。
たまにぼーっとしてる横顔が大人びててドキドキする。

朔英はかわいい。
給食が大好きで、ほんとうにおいしそうに食べる。
朔英と一緒に給食を食べてたから、俺も好き嫌いがずいぶん減ったと思う。
昔は飲めなかった牛乳も、今では大好物だ。


朔英は親切だ。
誰かが困っていたら躊躇なく助ける。
まるでそれが自分の仕事みたいに。
あまりに自然だから、みんな朔英に助けてもらって当たり前だと思っている。
本当はそうじゃないのに。

朔英は、それにすごくかっこいい。
スポーツ万能で、走るのがはやい。
ドッチボールでも、何度も俺の前に出てかばってくれた。

朔英はみんなに好かれている。
いつも周りに友達がたくさんいて、「岩ちゃん、岩ちゃん」とくっつかれている。

中学では遠くで目が合うことがあっても、ぱっと逸らされてしまい、ちょっと寂しい。
でも話しかけたら返してくれる。
恥ずかしがりやだから、なのだと思う。
迷惑なわけではない、と思う。
いや、そう思いたい。
…………………。

いやいや大丈夫、落ち込む必要はない。
俺がめげずに話しかければいいだけ。

朔英と話せた日はラッキーだ。
優しい気持ちになって笑顔になれる。
朔英はみんなを幸せにする。

朔英は優しい。
誰にでも分け隔てなく優しい。
親しい友達だけじゃなくて、通りすがりの別のクラスの知らない男子にも優しい。

身長が高いので、それでからかわれることもあるみたいだけど、笑顔でかわしている。
からかうのは大抵男子だ。
そんな時は相手をぶん殴ってやりたくなる。
笑ってたって、気にしてるに決まってる。
朔英の優しさにつけこむ奴には腹が立つ。

朔英はきれいだ。
朔英が笑うと周りがぱあっと輝く。
たくさんの星がきらきら光るみたいに。
いつもドキドキするけど、得意のポーカーフェイスで隠している。
そう、俺は勉強は苦手だけど、素直な朔英とちがって、人狼とかポーカーフェイスとかは得意なんだ。

朔英はきれいだ。

小学校の時だって隣の席で笑う朔英のことを「かわいいな」と思ったことはあった。
あったけど、チビで何もかも朔英に負けている俺にはとても手が届かないと思った。

周りの男子が誰も朔英のことを好きじゃなくてほっとした。
でも今はきっとそうじゃない。

こないだもクラスの男子に「岩田ってかわいいよな」「光輝、同じ小学校だったよな」と訊かれた。
朔英に教科書を拾ってもらったそうだ。

俺は咄嗟に「岩田ね!なんかずっと好きな奴がいるって言ってたよ」とごまかして逃げた。
本当は朔英に好きな奴がいるかどうかなんて知らない。
でも、紹介しろなんて言われたら困る。

俺は小学校で朔英に出会ってから、できないことを諦めるのをやめた。
ちゃかして笑うのもやめた。
こんな俺でも挑戦したら少しずつできることが増えていくのを知ったし、失敗しても「ちゃんとがんばれた自分」という事実が自信になった。

ぜんぶ、朔英が俺に教えてくれた。

中1で身長が伸びて、「もしかしたら朔英の隣に立ってもおかしくない男になれるかもしれない」と希望が持てた。

それからは苦手だった勉強にそれまでよりもうんと真剣に取り組んで、どうにか人並み以上の成績をとれるようになった。

俺には目標がある。
朔英よりも運動ができるようになる。
朔英よりも…は無理だから、朔英と同じくらい勉強できるようになる。
朔英に頼ってもらえる男になる。

そしていつか、朔英の隣に並んでもおかしくない男に成長できたら、その時は俺の気持ちを告白するんだ。

遠くからでもすぐにわかる、きらきらと瞬くような輝く笑顔。
太陽よりも眩しい星があると聞いたことがある。

朔英は太陽を超えた、太陽よりも眩しい星なんだ。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

こちらは「太陽よりも眩しい星」という作品から生まれた二次創作です。
第1話の冒頭の場面を神城目線で書きました。

作品紹介はこちら →
登場人物紹介はこちら →

生まれて初めて小説もどきの文章を書いたのですが、意外とすらすら書けました。
でもそれは、作者の河原和音先生が細やかに細やかに紡がれている土台があってこそ、のものです。

改めて、ゼロから物語を生み出しているすべての方に尊敬と敬意の念を表します。

本編は別冊マーガレット2022年12月号にて激動の18話が公開されて盛り上がり最高潮です。
通りがかりに少しでも気になった方は、ぜひ本編をご一読ください。

ヘッダーの写真は逆光で撮った太陽です。
星はアプリで加工しました。
素人感満載で恐縮ですが、気持ちだけはこめております❤

大好きな「太陽よりも眩しい星」が、ひとりでも多くの読者の方に読んでいただけることを願って。

2022年12月5日
たまほし愛読者 ちー

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