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本に書き込みができない

本にはどんどん書き込みをしたほうがいい。そんな意見をよく見かけるのだけど、わたしにはこれができない。

本に書き込みをするというノウハウに初めて出会ったのは、中学生くらいの頃に読んだ斎藤孝さんの本だった。そこには、3色ボールペンを使った読書術が紹介されていた。具体的には、大事だと思ったところには赤、そこそこ大事だと思ったところには青、面白いと思ったところには緑と、3色を使い分けて線を引きながら読むというもの。

「なるほど!」と思って、実際にその本は3色ボールペンで線を引きながら読んでみた。でも、そもそも3色ボールペンを使う習慣がなかったこともあり、その読書術は身につかずに終わってしまった。そしてそのまま、本に書き込みができない大人になった。

それはそれで「自分は書き込みはしないタイプです!」と堂々とできればいいのに、「書き込みしたほうがいいんだろうな」という感覚だけはあるから厄介だ。

どうしたら本に書き込みができる人になれるだろうと思って、ネットに参考になりそうなアドバイスが落ちてないか検索してみる。

「本は知識をつけたり情報を得たりするためにあるから、汚してなんぼ」
「本は消耗品と思ってどんどん書き込もう」
「教科書に書き込むような感覚で書こう」
「記憶に残すために書こう」

いろんな考え方を読んだけれど、やっぱりわたしにはできそうになかった。線を引く、余白にメモする、ドッグイヤーする。どれにおいても抵抗感が否めない。唯一できるのは、付箋を貼ることくらいだ。そういえば、家にある文章術関連の本には、いくつか付箋がついたままになっている。

わたしは結局、本という「モノ」そのものが好きなのかもしれない。モノとして好きだから、そこに書き込むとか折り目をつけて、その形を変えることができない。たとえとして適切ではない気はするけれど、アート作品のようなイメージ。だから手を加えることはせずに、綺麗なままにしておきたい。

あとは、何回でも新鮮な気持ちで読みたい、というのもある。家の本棚から久々に取り出した本に自分の書き込みがあったら、個人的にげんなりしちゃう。本屋さんみたいに、もしくは図書館みたいに、誰もが新しい気持ちで読めるように本を並べておきたい。そう考えると、綺麗に読むことで、読み終えた本を誰かにあげられるというメリットもある。書き込みをしないのも、それはそれで悪くない。


ちなみに自分は書き込めないけれど、ほかの誰かの書き込みを見てみたいという興味はある。その人がどんなところに線を引いて、どんなメモを書き込んでいるのか知りたいと思う。

何年か前に、BOOKOFFで文章術の本を買った。ページをめくると「実際に書いてみよう」みたいなワークがあり、前の持ち主がそれに挑戦した筆跡が残されていた。なぜか最初のワークはすっ飛ばして2問目のワークだけ鉛筆での書き込みがある。3番目以降は空欄のままだ。

書き込みがあったワークは、「師走について思うこと、思い出すことを書いてみよう」というもの。そこには会ったこともない、知らない人が書いた数行の文章がある。

決してうまいとは言えない字でところどころ解読すらできないのに、それも含めてなぜか愛おしさが湧いてくるから不思議だ。もしもこれが自分で書き込んだワークだったら、読み返しても恥ずかしいだけで、きっと愛おしくなんかならない。

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