とりとめもないのがいいねと言ってくれた
友達と久しぶりにご飯に行った。小学生からの付き合いで、高校と大学は別だったのに、不思議と定期的に会い続けていた幼馴染。大学を卒業して社会人になったら、意図せず徒歩20分圏内の場所に住んでいたことが発覚した。「30歳になってお互いに相手がいなかったら結婚するかあ」なんてありがちなことを冗談半分、本気半分で言ってた人でもある。
以前はすぐ近くに住んでいたのもあって、数ヶ月に1回は会っていたと思う。でも彼は1〜2年前に結婚して、職場が変わって引越しもして、会う頻度がグッと減っていた。ふたりで会うことはなくなったし、友達を交えてのご飯も年に数回くらいだった。だから、ふたりで会うのは本当に久しぶりだ。
お店は、彼が予約してくれた。前に彼が住んでいた家の近く、つまりわたしの家の近くの焼き鳥屋さん。家から歩いていける場所だけど、その日は取材で出かけていたので、電車に乗って向かった。
ワイヤレスのイヤホンを耳に入れてSpotifyをシャッフル再生し、スマホで仕事関係の連絡をしたり、プライベートな話の返事をしたり。そうこうしているうちに、目的地の最寄駅に着いた。彼の方が先に着いたので、お店で待ってくれているという。それに2〜3分遅れて、わたしもお店へと急ぐ。
歩きながら、シャッフル再生でaikoの「シアワセ」が流れていることにハッと気づいた。ぼんやりしていた。会う直前に、彼との関係には似合わない甘い曲を聴いていることに苦笑いな気持ち。音楽を止めて、約束の焼き鳥屋さんの扉をガラガラと開けた。
店員さんが少しずつ運んでくれる焼き鳥を食べながら、お互いの近況やら仕事のことやら、溢れるようにいろんな話をした。その友達と自分はすごく似てるから、彼の感じ方が手に取るようにわかる瞬間が何度もあった。話を聞きながら「自分を見てるみたいだなあ」とか思った。
特に「最近雑談が苦手なんだよね。自分ばっかり話しすぎたなとか、相手退屈じゃなかったかなとか不安になっちゃう」と話して、共感してもらえたときには驚いた。きみもだったんかい。
さらに彼は「今も思うんだけど、俺、話しすぎじゃない?」と言うので笑った。誰かに話しながら自分の考えを整理していくところも、わたしとそっくりだ。
そして会話のなかで、その友達がわたしのnoteをときどき読んでくれていることを知った。うれしくも恥ずかしくて、こそばゆい。彼は続けて「とりとめもない(ことを書いている)のがいいよね」みたいに言ってくれた。本当は、ただそれしか書けないだけなのだけど。でもうれしかった。
ひとしきり話して、お店を出たのは22時すぎだった。友達を駅まで見送る。改札の近くでバイバイした後にちょっと振り返ってみたら、彼は全くこっちを振り返るそぶりがなくて、そういうところがまたいいなと思った。代わりに「今日はありがとう」とLINEをくれた。
まじめな話もくだらない話も、何年もの付き合いになる「友達」として話せることが、本当に心地よかった。「30歳までに〜」が実現しなくてよかったと、しみじみ思った。
意外と繊細でめんどくさいところとか、浅野いにおが好きなところとか、性格や好きなものはとても近くて、でも理系文系とかスポーツの好き嫌いとかは真反対なふたり。何かが違えてたら恋人にもなれたんだろうか?とろくでもないことを考えて、でも、やっぱり違うんだよなあとすぐに思い直す。今となっては全く想像できない。
もし付き合ってたら、良くも悪くも変わってしまった何かがあったはずで、あの焼き鳥屋さんでの時間も、きっと全く違うものになっていた。というか、自分は好きになったひとを嫌いになりがちだから、そんな再会すらなかったかもしれない。
偶然だとしても、自分達で選びとってきたとしても、友達でいられてよかった。友達って言葉でパキッて表現するのも違う気がして、人間関係ってもっとグラデーションだよなとも思うのだけど。少なくとも自分はいまの関係性がとても大事だし気に入っているから、これでよかった。
駅から家までの帰り道、またイヤホンをつけてSpotifyを開く。お店に入る直前に聴いていたaikoの「シアワセ」が表示されたので、続きから再生した。「これが幸せ、今の幸せ」。曲の終盤、aikoがのびのびと歌い上げている。やっぱりこの曲じゃないんだよなあと思って、マスクの下でちょっと笑った。これが幸せ、今の幸せ。
プレイリストには数年前の曲を多くまとめているので、次に流れてきたのは星野源の「ギャグ」だった。なんとなく、彼に似合うなあと思った。
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