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「銀河の死なない子供たちへ」のかんそう

出会えてよかったなあと思える漫画がまた増えた。施川ユウキ先生の『銀河の死なない子供たちへ』。その感想をつらつらと書きます。

作品の舞台は、ずっと昔に人類がいなくなった地球。そこで暮らすのは、女の子のπ(パイ)と男の子のマッキ、そしてふたりのお母さんという、不老不死の身体を持つ3人だった。

ある日の夜、ふたりの子どもは空から降ってきた、宇宙服を着た人間と遭遇する。瀕死状態の女性は、π(パイ)とマッキの目の前で女の子を出産。赤ちゃんを託し、そのまま息絶えてしまう。

死ぬことのないπ(パイ)とマッキは、いつか死が訪れる人間の「ミラ」を育て、幸福な時間を過ごすが……。

簡単なあらすじはこんな感じ。「死」をテーマとして描いてはいるのだけど、重たい感じでは全くなくて、終わり方も決して残酷でなく希望を持てて、やさしい気持ちになれる作品だった。思わず泣いてしまった。

π(パイ)とマッキとミラ、お母さん、それぞれのキャラクターに愛らしさがあるのもよかった。たとえば、ラップが好きなπ(パイ)は鼻息荒く自作のライムを披露したり、読書が好きで勉強家のマッキは、熱心に『火の鳥』や『ロミオとジュリエット』を読んでいたりする。子どもたち3人で過ごすシーンでも、お母さんと子どもとのシーンでも、愛を感じられるセリフにグッときた。

一万年前 私はこの星空を見ている
一万年後も
私はきっと
同じ星空を見ている

冒頭は、そんなモノローグとともに、満点の星空の下でラップを口ずさみ、円周率を描き続ける女の子のシーンに始まる。

その後、その女の子π(パイ)は何百年、下手したら何千年の時間を日常のごとく過ごしていく。設定の説明らしき説明は全くなしに、自然と物語の世界に引き込まれていく感じがすごい。

そういった時間の経過や、同じ星に生きる動物たちの生命の営みといったセリフなしの映像的な場面も綺麗だった。

この作品は上下巻で完結なのだけど、下巻ではキャラクターそれぞれが強い思いを持って決断し、行動する場面がいくつも出てくる。怒涛の展開を迎えるなかでも、それぞれの言葉や行動ひとつひとつがやさしくて、いろんな場面で泣けた。

大きなテーマは、やはり死だ。死があるから人間であれること。そこに希望を持てること。ミラの言葉やπ(パイ)とマッキの決断は、死について、これまでにない視点をくれた。特に、最後に星を旅立つときにπ(パイ)が笑顔で「すっごくドキドキする!」と言ったシーンが印象的だったし好きすぎた。

ちなみに『銀河の死なない子供たちへ』は、毎週観てる『川島・山内のマンガ沼』という番組で紹介されてるのをきっかけに知った。

そして同番組のアンケート企画で、施川ユウキ先生はこの漫画で伝えたかったことについて「マンガは画力ではない…!という気持ち。あと、人間は必ず死ぬという現実を穏やかな眼差しで見つめられる気持ち。」と回答していた。

わたしの好きなタッチの漫画だったけれど、絵柄から想像する以上のものが描かれているといえば、そうかもしれない。テーマは本当に深くて、それぞれのキャラクターの心情や関係性、セリフまで丁寧に描かれていて素晴らしかった。先生の言葉を借りるなら「マンガは画力ではない…!」です。本当に。

わたしの場合は画力でなく文章力になるわけだけど、実際、文章力よりも内容だったりするよねとつくづく思う。たとえうまく書けないとしても、何を書くかは大事だ。


▲『マンガ沼』の『銀河の死なない子供たちへ』に関する回はまだTverで観られるので、多少ネタバレしても内容をもっと知りたい方はぜひ観てください!

▲漫画はKindleなどでも読めるのでぜひ!

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