見出し画像

まとめ本・抜粋本は「入り口」にする

Web記事には「まとめ記事」と呼ばれるものがある。あるテーマについて情報を集めて、ときに独自の観点で整理し、まとめて紹介する記事だ。具体的には、「片付けのコツ10選」とか「おすすめアイテムまとめ」といったタイトルの記事がそれにあたる。

そんな「まとめ記事」と同じように、大事なエッセンスだけを抜き出して、整理してまとめたような「まとめ本」というのも、この世には存在しているように思う。

たとえば『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』。文章術に関するベストセラーを100冊分析して大事なエッセンスを抜き出し、ランキング形式で紹介してくれている本だ。書店で初めてこの本を開いて読んだとき、ふと「まとめ記事」が頭をよぎった。ランキング形式によるまとめ感とサクサク読めるわかりやすさは、Webの「まとめ記事」に通じるものがあった。

2021年に発売されたこの本は、10万部を超えているらしい。文章術のベストセラー100冊分のエッセンスを、この1冊で体系的に知ることができる。そう考えると効率的だし、お得感もある。「まとめ本」のスタイルは、やるべきこと・やりたいことがいっぱいで忙しい現代のニーズに合ってるのだと思う。


ただ、まとめ本にはどこか物足りない点もある。と、今日立ち寄った書店で思った。著書の名前に惹かれて手に取った文庫本が思いがけず「まとめ本」で、少しがっかりして棚に戻したのだった。その本は、著者が執筆した本からあるテーマで格言やヒントになる文章を抜粋し紹介するという、いわば「抜粋本」だった。

出会うタイミングが違っていれば喜んで買ったかもしれないけれど、今日のわたしは著者の文章をじっくり読みたい気分だった。だから、たとえどんなに厳選されていても、一部分だけを抜き出した「まとめ本(抜粋本)」は、どうしても物足りなかった。

大事なエッセンスをコンパクトにまとめて伝えてくれるのは、たしかに便利。でも、それを読んで満足してしまうのはもったいない気がする。

個人的には、その本を索引のように使って、新たな知見と出合う入り口にするのが好きだ。たとえば『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』のおかげで、わたしはこれまで読んでこなかった文章術の本を知ることができている。(最後に100冊の書籍リストがまとまっていてありがたい!)


「抜粋本」でいうと、以前、太宰治の著作や書簡から文章を抜粋してテーマ別に編成した『さよならを言う前に』を読んだ。今も手元にある本だ。ページをめくると、初めて読む太宰治の文章がある。そしてそれが、作品と出合うきっかけになる。

ただ、この本にも少し残念に感じたことがあった。太宰治が恋愛論を語った「チャンス」の抜粋部分。そこに、自分が愛してやまない文章は入っていなかった。

まとめ本も抜粋本も、自分じゃない誰かの視点で編集されている。もしも、そうして抜き出されたエッセンスを知るだけで満足していたら、わたしは大事な1文に出合えなかった。自分が心を動かされる文章との出合いは、まとめ本や抜粋本という入り口じゃなくて、もう少し先にあるんじゃないかと思う。

スキやコメント、SNSでのシェアうれしいです。ありがとうございます。いただいたサポートは、本、映画、演劇、寄席など自分の好きなものに注ぎ込みます!