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オレはヘンドと優勝したい

人生でもっとも自分を褒めたいと思った時はいつ?
就活の面接だったか、こんな質問をぶつけられたことがある。
フォーマルな場だったから当たり障りのない別の答えを出したけれど、本当は即答したい答えがある。「2005年5月25日、イスタンブールの奇跡を見届けたこと」だ。

その前の準々決勝ユヴェントス戦からすっかりリバプールの(というよりルイス・ガルシアの)とりこになったとはいえ、前半で3−0で負けている中、よくぞ諦めて寝なかった。えらいぞ当時のオレ。朝練も遅刻しかけたけどよく行った。

人生でもっとも悔しかった夜はいつ?
こんな質問はぶつけられなかったけれど、いちおう答えは用意してある。「2014年、リバプールがチェルシーに負けた日の夜」だ。

あの時のオレは大真面目にリバプールが優勝すると思ってた。
というか「ここまでホジソン政権とか暗黒期が続いたんだから、そろそろ優勝してほしい」と半ば懇願に近い感情でいた。
だからこそ、キャプテンのジェラードがスリップして失点し、そのまま逆転できずにあっけなく負けたあの日は、今でも脳裏にこびりついて剥がれない。

当時、それまでチームを支えながらも、チェルシー戦のピッチに立てなかった選手がいる。
ヘンドこと、ジョーダン・ヘンダーソンだ。


生き証人としてのヘンダーソン

ヘンドがリバプールに加入したのは、2011年の夏のこと。
オーナーが替わり、補強方針も変わり、もちろん陣容もがらっと変わった頃。「英国化」を推し進めるチームにあって、21歳という若さでやってきたヘンドは将来を担う選手として目されていただろう。当時としては高額な2000万ポンドという移籍金と、名手シャビ・アロンソも袖を通した14番のユニフォームがその期待値を物語っていた。

ヘンド加入後のリバプールは、浮き沈みの激しい日々を過ごした。

ケニー・ダルグリッシュ、ブレンダン・ロジャーズ、そしてユルゲン・クロップ。監督が変わるたびにサッカーの方針が違いによる大転換が伴い、新監督のサッカーに慣れるための時間を要し、これでもかと勝ち星を落とした。

ただロジャーズ、クロップ政権下では払った代償の分のリターンはあった。後者は言うまでもないが、前者も徐々に攻撃的なサッカーを展開するようになり先述のように2014年のリーグタイトルを争うまでに至った。
それまで落とした勝ち星の分だけ、相手を攻め倒すチームの姿はオレにはまばゆく映った。
だからこそ、2014年はリーグタイトルをとり、チームの完成を見届けて報われたかったわけだが。

話をヘンドに戻す。
今思えば、彼はこのジェットコースターのようなチームの浮き沈みを最前線で経験していたと思う。
ロジャーズ政権では一度戦力外として放出されかけたし、クロップ政権ではアンカーとして生きる路線変更もやりかけた。

移籍してから今に到るまで、リバプールというクラブの浮き沈みを目の当たりにし続け、苦しみながら適応し続けてきたヘンドは、2010年代から今のリバプールの生き証人といえる。

そんな彼だからこそ、クラブのレジェンド、スティーブン・ジェラードからキャプテンマークを受け渡されたのではなかろうか。
一度はロジャーズ監督から「戦力外」にされたヘンド。加入当初はオレも「地味な選手」と認識していた。
でも加入して4年後の2015年夏、ジェラードが去った後のキャプテンマークを譲り受けるのがヘンドと聞いたとき、「彼こそふさわしい」と思うまでにオレはヘンドに心酔していた。


胸を打つヘンダーソン

当初は疑ったジョーダン・ヘンダーソンという選手に、なぜここまで入れ込むようになったのか。
振り返ってみると、彼の選択のひとつひとつが常人には真似できないもので、その姿が胸を打ったからだと思う。

ヘンドにまつわる話の一つとして、「彼のかかとの痛みは不治のものかもしれない」という話がある。恥ずかしい話だが、オレがこの話を知ったのはつい最近だ。
ヘンドは痛みなんてどこにも無いかのようにピッチを駆け回り、赤いユニフォームを泥と汗で染め抜く。
少し怪我がちで負傷離脱は何度かある選手だが、それでも慢性的な痛みを抱えているとは露にも思わなかった。

ヘンドの戦いはピッチ内に止まらない。オフザピッチでも彼はハードワーカーだ。コロナ禍の中で活動が困難になった慈善事業へのサポートから、イギリスの国民保健サービス(NHS)を支援するPlayersTogetherという基金の活動など、社会問題とも向き合っている。
その姿は「You'll never walk alone」をアンセムとして掲げるクラブの主将たるに相応しい。

語弊を恐れずに言えば、ヘンドは決してジェラードのようなカリスマ性を持ったキャプテンではない。サラーやファンダイクのような派手さがあるわけでもない。それでも世界一となったリバプールのキャプテンマークが似合うのは、陰ながらあらゆる問題と戦い続けた彼の姿勢ゆえではなかろうか。


6年前とは違う

戦い続ける背番号14とともに、リバプールは悲願のプレミアリーグのトロフィーにまた指をかけた。2014年のあの時よりも、しっかりと。
オレの思いも、報われたくてタイトルを請い願うだけの6年前のそれとは違う。去年ビッグイヤーを掲げた彼に、ここ数年のクラブの苦悩を知る彼に、苦しみながらも戦い続けた彼に、クラブ史上初のプレミアリーグのトロフィーを掲げてほしい一心だ。

「オレはヘンドと優勝したい」


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