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2020年8月

バイクの後ろに乗る時に思い出すのは、ベトナムやタイで原付に乗せられていた犬のことだ。

彼らは当たり前のようにおとなしくじっと乗っていた。えらい。怖くないかどうかは、その犬に聞いてみないとわからないけれど。

私が初めてバイクの後ろに乗った時は、自分のせいでバランスを崩して転んでしまうのではないかとすごく怖くて緊張していた。大丈夫になったきっかけは、何度目かの乗車中、小さな段差の上を走った時に体が浮いて思わず運転手の両肩を掴んでしまったことだ(それまでは、片手は肩、もう片方は後ろについているレバーを掴んで前後でバランスをとっていた)。意図せずに掴んだ肩ではあったけれど体制的にもしっくりきたし、前後でバランスをとっていた時よりも怖くなくなった。そして、以前ネットで見かけた原付に乗せられていた犬のことを思い出して、なんだかその犬みたいだなとぼんやり思った。私の中の犬が姿を見せはじめたのもこのあたりだったようにも思う。

このきっかけとなった出来ごとからはずっとこの乗り方をしている。あの犬をお手本にして、犬として後ろに乗る。あれこれよくないことばかりを考えて不安そうに乗っているよりは、あの犬みたいにおりこうに座って楽しそうにしている方がずっと良いだろう。乗せている方も、乗せてもらっている方も。

今はもう大丈夫で(一気に加速する時はちょっと息を止めるけれど)、バイクに乗っている時間を楽しむことができる犬になった。夜をまだ引きずった朝の目が覚めてきて明るくなっていくのも、昼が日差しで近くも遠くもキラキラ反射させていくのも、朱色と紺色がどんどん濃くなって夜に帰っていく夕方も、目が覚えている。もしかすると、お手本にしたあの犬に近づけているかもしれないと思った。もしそうなら、うれしい。身を預けることができる心の強さが芽生えてきたのだとしたら、すごくうれしい。

今年の北海道は、2月にはコロナの影響が広まってしまい、ほとんど出かける機会もないまま、また寒い季節が近づいてきた。バイクをしまう前に乗れそうな機会が1度くらいありそうなので、その時はおりこうな犬として後ろに乗っているだろう。

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