ライチと花 (2022年11月)

窓の近くに立っていた、ときどきライチの名を呼んだ、花がよく咲く家だった
 
ライチは空想上の犬だった、それなのによく懐いた
いつもわたしたちについてきて、ダルメシアンと何かの雑種だった
模様がすこし変わっていた、脚が短くまるかった、なぜだか一度も吠えなかった
 
花が咲かなくなったから、ライチはいなくなった
逃げてしまったのだろうか、あるいは死んでしまったのだろうか
 
あれから何十年も経って、
机の引き出しの奥、もっとも大切なものをしまってある箱に、わたしは一枚の絵を見つけた
誰かが書いたライチの絵、模様がすこし変わっている、脚が短くまるいあの犬
 
ライチ、 
井の頭恩賜公園を駆け抜け、ほそい路地の階段をあがると、
数え切れない花々が降る 
わたしたちは今もあの街の中で暮らしている 
遠くで犬がひとつ吠え、 わたしはたしかに永遠を見た


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