やさしい涙
私の夫は [ポーカーフェイス] だ。
映画をみても、本を読んでも、音楽を聴いても、炊きたての新米を食べても、タンスの角で足の小指を誤爆しても、無表情。
ひたすら無表情。
交際中、あまりのポーカーフェイスっぷりに(きっとこの人は赤ちゃん時代に表情筋を使いきったんだろう)と思っていた。
だから
結婚式で、父とバージンロードを歩く為の扉が開いた瞬間、顔をぐしゃぐしゃに崩して涙を溢れさせている夫を見て、私は固まってしまった。
隣にいる父の咳払いで我に返る。
ゆっくり歩きながら
(もしかしてとても具合が悪いのか?救急車?救急車案件か?)と頭の中は大混乱。
祭壇の前に辿りつき、改めて顔を見てみると、そこにはいつものポーカーフェイスが立っていた。
結婚式が終わって3ヶ月ぐらい経った頃、式場からフォトブックが届いた。
意気揚々とページをめくると、あのぐしゃぐしゃ顔がばっちりカメラに収められていた。
「この時、珍しく泣いてたね。
何か理由があったの?」
少し緊張しながら尋ねる。
『君のお父さんの笑顔が、
君にそっくりだったから。』
あぁ、
なんて やさしい人 なんだろう。
そうだ、
この人のこういうところが好きだったんだ。
甘い言葉も、
洒落たプレゼントも、
気の利いた所なんて何一つ無いけれど、
それよりももっと大切なものを、
あなたは持っている。
やさしい涙を
ありがとう。
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