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ー安楽死を宣告された猫との35日間ー  21日目

BAKENEKO DIARY /DAY 21. もうリードは嫌だ

 朝、ミータはシリンジでチューブから注入したミルクを吐いてしまった。シリンジ給餌を拒絶しているようにも思える。退院したときはまっすぐ歩くこともできなかったのが、数日でゆっくり歩けるようになり、今ではトコトコと早足もできようになった。回復が実感できてうれしいのだが、厄介なのが食道チューブ。60センチほどあるチューブをくるくる巻いてテープでまとめ、筒状の簡易服の背中側にしまえるようになっているが、服が伸びてきているので、動くとすぐにチューブが飛び出してしまう。
 
 リードを装着して外に出すと、また厄介なことをするようになった。動きやすい右足をリードから抜いてしまうのだ。しかし、首回りに食道チューブがあるので、あまりリードをしっかり締め付けることはできない。頭が抜ければリードはもう用をなさない。身体の自由がきくようになったミータをリード付きで散歩させるのは、間もなく無理になる。そしてチューブが木の枝やフェンスに引っかかると、大変なことになってしまう。やはり、もう自力で食べさせるしかない、チューブは終わりにしなければ、と改めて思った。

 ミルクを注入しなければお腹が空くだろうと、こまめにエサをあげる。ちゅーるやウェットフードなら少量ずつ食べられるが、ドライフードはあまり進まない。Z動物病院の看護師さんには、診察のたびに「ドライフードは食べていますか?」と聞かれる。缶詰やクリーム状のフードだけでなく、“ドライフードを食べられる”というのは回復の目安のようだ。

 夕方から、娘Sの同級生が泊まりに来た。一週間前なら「今、お友達を家に呼ぶのはやめて」とSに話しただろう。でも一昨日あたりから「まあ、大丈夫かな」と思えた。お友達のYちゃんは家に来ると、包帯代わりの服を着たミータを見て「服着てる~。かわいい」と言った。以前なら見知らぬ人が来るとすぐさま姿を隠していたミータだが、一緒にリビングで過ごしている。Sと「ミータ、ここにいるんだね」と顔を見合わせた。病院で人間に慣れた? それとも後遺症か、まだ身体を動かすのが億劫なのか?
 
 夜、ミータが外にトイレに行きたそうにしはじめると、SとYちゃんが散歩させてくれると言った。夜だから、ちゃんと見ておいてねと言ってふたりにまかせた。ふたりはリードを持って、外で写真を撮ったりして楽しそう笑いあっている。そのとき、「きゃあ!」という声が聞こえた。
「ミータ! ミータ!」
 大慌てで外に出て行くと、半分リードが抜けたミータの身体をS が押さえつけている。笑い声に驚いて、ミータが走り出してしまったようだ。冷や汗。リードを付け直して、トイレが済むまでは私が付いていることにした。

 もう少し。もう少しのところまで来たから。ミータ、もう少しがんばって我慢して。夜空の下で、ミータにそう言い聞かせた。

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