『随筆集 遠くのこだま』福永武彦

旅のそら、日々折々に、美しいものに触れては心のなかに遠くから溶け合うように響いてきたことども――絵・音楽・映画の鑑賞や批評から日常茶飯にとらえたちょっとした生活の味わいを綴る、『別れの歌』につづく随筆集!

新潮から六冊のシリーズとして刊行された随筆集の一冊。好きな作家ということもあって楽しく読んだ。

とりわけ旅について書いたものが読ませる。風景を観る視線、それを描写する言葉、単なる旅行記ではなく、やはり一幅の文学作品として成り立っている。さすがとしか言いようのない。

音楽や映画についての批評的な文章も福永の芸術観に裏打ちされていて、感想を語ることが直ちに批評になる。

一方で、後記でも「私の最も不得手とする領域」と自嘲する、人生論風のものは、何処かぎこちなさが感じられて、そこに福永の含羞が感じられてかえって微笑ましい。書きたくはなかったんやろうなあ、編集者に押し切られたんかなぁ、と想像が奔る。

フンデルトワッサーという画家について書いていて、知らない画家だったので検索してみると、画家でもあった人だけれど建築のほうでいくつか後世に残る作品がある人だった。
フンデルトヴァッサー、という表記が一般的らしい。

レンブラント、ルオー、フジタなど有名作家についても、福永が語ると何だか全く彼らの魅力を見落としていたかのような感じがして、また作品が観たくなる。

そういう感興を読むものに喚起する文章というものを、軽やかに綴ってみせる力量。力の入った創作とはまた違ったアプローチで、福永の魅力を伝える一冊。

堪能しました。

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