川合康三 訳注『白楽天詩選(上下)』
漢詩を読みたいなあと思ったきっかけは、NHKの『漢詩紀行』という短い番組だった。
中国の雄大な景色の映像に、江守徹の朗読が重ねられる。江守の深みのある美声がなんとも魅力的で、美しい映像と相俟って強い印象が残った。二十歳になるやならざや、の頃のこと。
とはいえ漢詩は難しい。何度かチャレンジしては跳ね返されてきた。大学で漢文を多く読んで(読まされて)いたのもあって、一字一句読み下さないと、という意識があり、詩を味わう手前で疲れてしまうのだった。
それから三十有余年、もう漢文なんて読めるべくもない、そういう諦めの境地に達し、細かな語句には拘らず、訓み下しと現代語訳で大意を拾いながら、描かれた光景や、対句の妙などを楽しみながら読めた。ページが進むに連れて次第に漢詩の表現やリズムにも慣れてくるようにも思う。
白居易は中国本土でも日本でも大人気だったそうで、平明な作風の詩人(解説より)。
詩人の作風を読み取れるほどにはまだ読みこなせないけれど、案外読みやすかったのは白楽天ゆえ、という面もあるのかもしれない。
この文庫は経年に編集されており、居住地ごとに章を変える構成になっている。漢詩は風景を詠む割合が高いので、同じ地にいる時に作った詩を纏めるのは理に適った編集だと思う。
訳文も平明で非常に読みやすく、訓み下しと続けて読むと、訓み下しでは意味が取れない部分もなるほどそういう意味なのかとすぐに理解できる。
前半の若かりし頃の作品は美しい景色の描写が印象的で、波乱含みの人生の道行に向き合って起伏にとんだ内容、下巻の後ろ半分は晩年を過ごした長安での作品を集めている。官位を返上し、老いと向き合いながら過ごした日々、先立った友達との思い出、諦念と切なさが色濃くなっている。
そういった、白居易の人生の浮き沈みについても、適切な解説がついているのも良い編集だと思う。
初めて読む漢詩には相応しい一冊。これから少しずつ外の詩人も読んでみよう。
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