『群青の湖(うみ)』芝木好子

琵琶湖のほとりにひとり嫁いできた瑞子は、旧家の重みと夫の背信から、幼い桜子をつれて生まれ育った四谷に戻る。かつて美しい染めや織りの技を競いあった仲間にむかえられ、瑞子は群青の湖の永遠の神秘を、その片鱗でもよいから一枚の布に止めたいと願うのだった。精魂をこめ格調高く織りあげた傑作長編。

無知なことに芝木好子という作家は知らなかった。ふとした偶然でこの作品を手に取ることになって、読み始めてすぐ、その文章の凛とした気高さに虜になった。そして夢中で読んだ。

決して薄い本ではない。しかし無駄なこと余計な描写は徹底的に取り除かれている。濃密な文章だけで成り立っている。

その端正な文体は乙川優三郎を彷彿とさせるが、乙川さんは芝木さんを読んでいたらしいと聞いて納得。

藝術に生きる女性の姿を描くところも、乙川さんに影響を与えているのかな。

常に作品の真ん中に、ヒロインの心の真ん中にある、群青の湖、琵琶湖。生の脆さ、愛の儚さ、そんなものに揺さぶられながら生きる人間を超越した、聖なる湖。 

そんな湖の水面に浮かぶさざ波ほどにも満たない、人間のちっぽけな歩み。よろけ躓きながらそれでも歩み続けるしかないヒロインの姿が大きな感動を産むのだから、不思議なものだ。

出逢えて良かったと心から思える傑作。堪能しました。

作品の内容から思い浮かべるのはやはり志村ふくみさんだろう。文庫の表紙には志村さんの作品が使われている。この表紙にした編集者は良い仕事をしたと思う。

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