中村眞一郎『四季』
青春時代に時間を共有した二人の初老の男性が、思い出の地を訪れて過去を回想する。
しかし二人の記憶は少しずつ食い違い、重なることなく、それぞれの追想はそれぞれの記憶の中でのみ存在し続ける。
失われた時を探して歩く二人の歩幅のずれが、何とも不思議な不安定さを醸して、二人の現在の生すらもが、重ならないことに気づく。
生と死、記憶や思い出、一人ひとりが抱え直面せざるを得ない事態こそが、人生の実相なのだという諦念と、しかしそれ故に甘美な陶酔としていつまでも自分の中にあるという幸福。
よく考えると重いテーマなのかもしれないけれど、中村の軽やかな筆捌きに、高原の街に輝いた青春の煌めきも感じられて、あっという間に読み終えてしまった。
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