堀田善衛『路上の人』

中世ヨーロッパに関する本を続けて読んだので、昔読んでさっぱり分からなかったこの本も、今なら読めるかな?と引っ張り出してきた。

冒頭の、教会の石彫のレリーフについての記述は、中世ヨーロッパの象徴的雰囲気たっぷり。

しかしその後の文章には、どこかもどかしい感じがつきまとう。

物語は自由人ヨナの視点を通して、国家と王権のせめぎ合いの中で、翻弄される民衆、暴徒化する信徒、信仰と狂気がないまぜになって荒れ狂う様を描いて、人間の業の深さを冷徹に見据えている。

その冷徹さが、物語のダイナミズムを削いでしまっているように思えた。

読書メーターで「なにか"他人事"のような印象で小説としての没入度・感動度という点では今一つ」という感想があって、うなづいてしまった。

そこが堀田善衛の個性であり特徴なんだろうなとは思うけれど。

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