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青の時代pt.1(1985.10~1986.12)

(序文)

あたりきしゃりきのこんこんちきですが、昔はインターネットなど無かったし携帯電話も無かった。
だから、連絡手段は固定電話だったり公衆電話、待ち合わせなら駅の伝言板だったり、時間に遅れたら逢える確率はかなり低く、数時間も待ち合わせ場所で待つ事も日常茶飯事であった。
アルバイトは、「アルバイトニュース」や「フロムA」等雑誌で探すか、現地のバイト募集の張り紙を見るかである。

1985年9月、東京から千葉・浦安へと引っ越した。

父と同居、16歳も残すところ僅かで、12月になれば17歳だ。
まだ何者でもなく、その上何処へ向かうのかも未定、よく夢を持ちなさいと言われたりもするが、夢など寝てる時に見るくらいで、もっと現実的な何かを掴むのに躍起になっていた。
例えば、物質的なものだとか、彼女が欲しいだとか、漫然とお金が欲しいだとか、一人暮らしがしたいとか、そんなところである。

いやそんな僕にも漠然とではあるが、少しだけ目標があり、それは海外へ出て生活がしたいというようなコトだった。
高校の夏休み、友人がいるイギリスのロンドンへ遊びに行き、それがえらく気に入ったようである。
そうしてそのまま高校を中途退学してしまったのだから、説明が要るので語学留学だの、高校卒業の資格(大学入学資格検定、略して大検)を取るだのと、嘯(うそぶ)く訳なのです。

背景はだいたいそんなところ。

僕は、中学から27歳くらいまで日記をつけてました。
これだけ自粛な時間があるのでポツリポツリと読み返していってるのですが、中学校を終え、高校は中退、そして15歳からの青臭い時期へとさしかかる。
そんな16~19歳、中古レコード店での仕事から、最後は芝居なんかさせられちゃって逃げ出す辺りまで、時代は1985~89年くらい、昭和のどん詰まりのお話。

実名を記してもいいくらいなのですが、一応仮名を使います。
日記なので当然私的な家庭の事や、つまらない内容など書いてあるので、仕事とそれにまつわるお話以外は除外しています。
大筋で日記に記された通りなのですが、語尾や、読み辛い箇所、言い回し等、変更しています。
最初は、日記を丸写しするよりも、新たに物語を構成しようと思いましたが、そんな文章力も忍耐も無さそうなので、ここはもう成るように成れという気持ちで、模写いたします。却ってそのままの方が、面白いやも知れない。
インプロビゼーションだ。

写経のように、日記から言葉を写し取っていく作業をしていくうちに、なんだろう、自分自身のある時期を読み取っているのだけど、まるで知らない人間であったり、ものすごく親近感が湧いてしまったり、この30数余年で僕ではない僕がそこに書かれているように思えた。
もちろん深層意識に深いところに、それは生きているのでしょう。
忘れているだけなのかも知れません。
笑っちゃうんですね、この時期特有の鼻持ちならない臭みと、子供でもなければ大人でもないし、ましてや善人や悪人でもない、なにか別種の奇妙な生き物がどうにかしようともがいているような、気持ちの悪い青臭さ。
だけど、当然、それも自分自身。
そんな時間を遣り過ごし、流され流されして、何処へ辿り着くのやら。
うんにゃ人生が旅であるならば、齢50を過ぎ、未だ何処にも行き着いてない。
永住なんてこと考えもしない。
流浪の刑罰を受けているかの如、徘徊せねばならない。
そんな事を思いながら、書き写していきます。

Blue Period (1)
1985年10~12月

10月12日(土曜日) 晴れ
突然ですが、レコード(中古)店のバイトが決定した。
2時頃、面接がてら西船橋にあるレコードショップ「TARO」を訪ねた。
ここはレンタルもやっていて、バイトするのは中古の方、来週からはいろんなデパートのドサ回りに行くという。
さっそく仕事にこき使われてしまった。
レンタル店で用済みになったレコードを中古として売り出すため、レコードにびっちり張り付いている"レンタル"というシールや整理番号のシールを、シンナーをつけて剥がす作業だ。
オーナー(社長のようなもの?)はいい人のようだが、直ぐに居なくなった。
店長は親切でわかりやすい所だけを簡単に教えてくれた。
時には「慣れれば自由にすればいいし、休みも適当にとれる」
と不良っぽいところもあり、勿論音楽の造詣も深そうだ。
しかしもう一人、一筋縄ではいかないような嫌にツンケンした野郎がいて、女とはペチャクチャ喋るくせに、僕には一言もなく、次期に店長がいなくなると、ふたりきりになって険悪な空気が流れた。
シンナー作業の後は、検盤作業。レコード盤にキズが無いかを一枚一枚確認して、A~Dのランクに区分けする。
ヤツが値札とレコードをセットし僕に渡すと、僕はセロテープで札をレコードに貼り付けるという簡単な作業なのだが、ヤツのペースは早くてどんどんとレコードが積み上がっていく。あたかもノロマな自分をあざけ笑うかのように。
ヤツが突然話しかけてきた。
「高校、卒業したんだろ?」
「いえ、中退です。」
すると皮肉たっぷりに「へぇ〜すごいね〜」ときた。
(中退が悪いのかよ、28くらいのジジーのくせして逆上せてんじゃねーよ)
という心の声。
8時釈放。
なんて幸運なのだろう、晴れてレコード屋のバイト。
始まったばかりだが、それほど苦でもない。
時給600円、8時間労働で4800円。
電車でニヤニヤ笑いして、家へ帰った。

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