見出し画像

【映画観覧記】『THE FATHER』(2020)

映画『THE FATHER』(2020)
監督:フローリアン・ゼレール/主演:アンソニー・ホプキンス、オリヴィア・コールマン

アンソニー・ホプキンスといえば、レクター博士(羊たちの沈黙)。
というぐらいそこから微動だにしないキャラクターを演じた。
ケヴィン・スペイシーとか、まぁウィリム・デフォーやゲイリー・オールドマン、ジャック・ニコルソンなど、それぞれ絶対的な悪をやらせたらピカ一なのだが、ここはやはりA・ホプキンス、
演技でなくまるで地でその役柄になってしまう。
僕の中では、2020年ベスト1の映画です。
これはその時映画館に見に行った時の感想アーカイヴ!

映画館は、僕の他観客3人という贅沢なスペース、
"さ-13"という一番良い場所。

認知症の父親その目線で進行していく物語、
だからこそ凄いストーリー展開でした。
そうなのか、彼らはこんな恐ろしい時間軸で日常を過ごしているのか!?
まるでACIDを摂取したかのような、切り貼りで辻褄の合わない非合理な世界が続く。
痴呆の老人と話しているとまったく飛び飛びの意味不明な会話になってしまうコトがあるが、それは彼らの中では合理的に成立していて、狂っているのは現実の側というコトになるのか。
映画の中では、お父さんが見ている流れだけが全部なので、いきなり時間が飛んでしまい、知らないオトコが出現したり、娘の言っていたセリフが抹消されたり復活したり出たり入ったり、髪型まで変わってたり、住んでいたフラットが違ってしまっていたり、だいたい娘はいったい結婚しているのか離婚したのか、もう現実の世界は蚊帳の外である。

自身の記憶がどんどん抹消されていく感覚、
それは実に恐ろしい。
そこにあったものが一瞬で消えてしまうのだから、あったという記憶が本当だったのか疑心暗鬼に陥り、自分自身を疑い、相手を罵るくらいしか抵抗できない。

もうこの際、真実はどうだっていいのだ、
正常な時間が順番に進行していってくれるだけでいい。
彼がいる時間が過去なのか未来なのか、
今なのだとしたらそれはどこから今になったのか、
扉を開けて出てみたら施設に軟禁されているのかも知れない。
時々現れる見知らぬオトコは、彼を虐待している職員なのかも知れない。
執着するものが腕時計というところが、これは笑ってしまう方がいいのか。

展開はまるでホラー(そこにはコミカルさと表裏一体)
室内の窓を通して見える外の世界が愛おしく見える。
(そこが唯一正常さを保っているような日常がある、ような気がする)
彼はフラットの外へは一切出ないからこそ、
扉の先が別の部屋へと繋がっていっても違和感はない。
制作費はかなり安くあがったに違いない密室劇、
A・ホプキンスの演技力だけがこの映画の肝。

Anthony Hopkins@THE FATHER #一骨画