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ショーケン主演ドラマ『宣告』のこと。

TBSドラマ「宣告」(1984)

原作: 加賀乙彦
監督: 斎藤光正
出演: 萩原健一、金沢碧、石原真理子、加藤治子、泉谷しげる、ケーシー高峰、藤波雅代、仲谷昇、ほか

やっと観られた作品でした。
83年大麻不法所持で逮捕され、1年の謹慎後、復帰したショーケンのTVドラマは、79年刊行された小説『宣告』
バー・メッカ殺人事件の犯人・正田昭をモデルとする主人公、死刑囚の最後の5日間を描く。
ルポタージュ的でもあり、実際のモデルを想定して描かれた小説でもある原作を、やはり2時間枠で収めるのには無理が出てしまう。

主人公と同じ死刑囚に、泉谷しげる、ケーシー高峰など個性的な囚人役をそえてるが、描き切れていないのが残念。
主人公・楠本 他家雄がいかにして事件を犯し、なぜこのような人格形成に至ったのかを説明するので精一杯な印象だ。

原作者・加賀さんは、実際に東京拘置所の医務部技官として勤務して、何百人もの死刑囚と面談している。
死刑執行は、判決確定から6ヶ月以内という規定があるが、実際は何年にも渡り収監され、死刑告知もその当日だという。
物語では、死刑宣告に怯えながら壊れていく囚人を描き、告知する看守の足音に精神を病んでいく。
確かに残忍で更生も望めぬ者を監禁するという事は致し方ないのかも知れないが、それを決める法律、裁判の
人が人を裁き極刑(死刑)にする制度に、無理があるのではないかと、
個人的に思う。
近年だと、オウム真理教の事件犯に死刑が執行された件は、疑問が残る。
何も解明されないまま、うやむやに殺してしまっていいのだろうか?と。
罪を犯した者は必ずその報いを受けなければならない。
因果応報、それを人が判断していいのだろうか? 
そんな資格を持ってるのは神さまだけ、ということは、ヒト科の同種が裁いちゃいけない。
その矛盾、毒を以て毒を制す制度、それを問うたドラマともなっている。

話が脇へ逸れてしまったが、ショーケン復帰作という本編は重要な作品だ。
ここから波瀾万丈な30代のショーケンは始まり、この年(1984)は、飲酒の人身事故、週刊誌の記者を暴行容疑で書類送検、
それでもそれをモノともせず、伝説の読売ランドEAST'85年アンドレ・マルロー・ライブ! へ突っ走る。
彼を裁けるのは彼自身でしかない、というコトを実践してるかのような暴れっぷり。
それがショーケンの生き様です。


絞首刑

そしてドラマは極刑へと向かう。
絞首刑なのである。
(僕は電気椅子だと思っていた、それはアメリカ式で現在は薬剤により処刑)
日本でいう「縛り首」これが死刑の執行方法。
いまだにこの方法で行われ、約14分ぶら下がったまま囚人は息絶える。
重いテーマのドラマでした。

楠本他家雄は人間不信の徒であった。もしそれだけならばカミュの『異邦人』のムルソーのような人物にとどまっただろう。
そういう冷たい一方の人間は、現代文学では通りがよい。
いろいろな犯罪小説の主人公は、無情で冷酷で、心さわがず犯罪にむかい、何の後悔もおこさない。(中略)

しかし、私はそういった方向の人間を書こうとは思わなかった。
不信の極から人間へのまったき信頼へ、ひややかな心情から熱い愛へ、百八十度の転換を作品のなかで実現させたかった。

死刑囚の極北の生を描きながら、常識の目で見たら何の救いもない独房のなかに、明るい希望を見出すという逆説、
これが私の書きたかった本当の主題であり、野心であった。

加賀乙彦「『宣告』を書いて」