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憧れへ向け、Hop!Step!Jump!

関西学連のnote、第4走を務めるのは三段跳の学生記録保持者、武庫川女子大学大学院の船田茜理さんです!

船田さんの自己ベストは、2022年8月のトワイライト・ゲームスで記録した13m81。これは当時日本歴代2位の好記録。なんと1998年から25年間塗り変わることのなかった日本学生記録を更新してしまいました。
学校の25mプールの横幅がおよそ12m〜13mで、船田さんは軽々と飛び越えてしまいます。

「どうせなら意味のある練習をしたい」

この2、3年で急成長し、日本のトップをも見据えるようになった船田さん。そのきっかけは何だったのか、話を伺いました。


1.陸上競技との出会い

船田さんが陸上競技と出会ったのは小学生。当時、通っていた小学校には陸上クラブと吹奏楽クラブしかなく、身体を動かしたいと思っていた船田さんは陸上クラブに入りました。専門種目である跳躍種目に取り組み始めたきっかけは、小学6年生の体育の授業でたまたま彼女の走幅跳を見ていた陸上の先生に「めっちゃ跳ぶやん!」と声をかけられたことでした。中学入学後、走幅跳に主に陸上競技を続けていた船田さんは「走ることより、跳ぶことの方が好きだった」ため、短距離ではなく、走幅跳を選んだといいます。部活には休むことなく毎日行っていたという船田さん、その理由はなんと「顧問の先生が怖かったから」だと言います。しかし、高校進学後、船田さんの競技に対する姿勢は大きく変わりました。

2.練習の意味を探しながら

高校でも陸上部に入部しましたが、顧問の先生が中学校の頃ほど怖くなかったこともあり、ほぼ幽霊部員状態だったといいます。しかし、1年生の終わり頃、これまで続けていた走幅跳ではなく、三段跳と出会います。中学生の大会には三段跳という種目がないため、その時点ではルールは勿論、存在すら知らなかったそうです。右足で連続で跳ぶ、ポップ、ステップに「なにこれおもろ!!!」と感じた船田さんは三段跳を始めることを決めました。当時通っていた高校は陸上の強豪校ではなく、練習場所は砂場と砂場の手前にある10mのタータンのみ。跳躍練習が満足に出来なく、練習は専ら立ち三段跳や立ち五段跳をひたすら跳ぶ。それでも「砂場があるだけありがたかった」と、これらの練習が船田さんの強みである前に押し進む力に繋がったといいます。

そして、高校2年生のとき、船田さんの競技への姿勢を変えるきっかけとなったある出会いを果たします。それは、学校の先輩と顧問の先生が修学旅行で不在のとき、船田さんの練習メニューを組み、指導してくれた副顧問の先生との出会いです。「練習をする前に、いつもメニューの意図と意味を教えてくれて、それを聞いてから練習をすると、違う感覚で跳べたり、速くなったと感じるようになり、それがすごく楽しかった」と教えてくれました。当時まだ幽霊部員気味だったという船田さんですが、副顧問が見てくれる1週間は部活が楽しく、毎日行ったそうです。それから船田さんは、修学旅行が終わり帰ってきた顧問の先生に練習メニューの意味を聞くようなり、わからないメニューでも意味を探しながら練習を始めました。

「意味がわからないからやらないのではなく、1回やってみて自分で意味を作るようにした」

それ以降、練習をする際は、その意味を考えながら、そして毎日身体の中で意識する部分を変えて取り組んでいるそうです。
副顧問の先生の存在によって練習に対しての意味を見つけられたことが、その後の成績に大きく結びつきます。高校3年次には、三段跳で全国IHに出場。船田さんにとって初となる全国大会は惜しくも決勝進出を逃す結果に、船田さんは「この時、初めて陸上で悔しくて泣きました」と語り、この悔しさを持って大学陸上へと舞台を移すことになりました。

3.めっちゃ跳んだ昨シーズン

いよいよ高校の卒業が近づくにつれ、大学選びで苦戦を強いられたそうです。その理由は、船田さんが理想とする大学がなかなか見つからなかったから。進学先を決定する上でいくつかの条件がありました。一つ目は陸上を続けられること、二つ目は幼稚園の先生を目指していたこともあり教職課程がとれること、そして最重視したのは勉強が苦手だったため「実技試験で合否が決まる」ことだといいます。また、船田さんは当時を振り返りながら「推薦で入学したら練習に絶対出ないといけないし、退部したら退学に繋がるかもしれない。縛られるのは嫌でした。」と語ってくれました。勉強はできないけど推薦入試は嫌。この条件をクリアした大学が現在船田さんが通う武庫川女子大学でした。すでに声をかけていただき承諾次第で推薦入学が決まっていた大学を断り、武庫川女子大学へ進学しました。
新しい環境で自分の居場所を見出せない中、船田さんは同級生にとても救われたそうです。「自分の性格はマイペース。周りに理解してもらうのに少し時間はかかったけれど、同級生など仲間のおかげで今は自由にできています。周りの環境に恵まれました。」と笑顔で語ってくれました。

武庫川女子大学陸上競技部の集合写真

大学の練習では、高校の練習で培った「足の接地時間が長く、つま先までしっかり押して前へ進める」という良さを活かしながら、水平移動することを意識して練習しているといいます。そして、大学4年生の昨シーズン、船田さんは大きく記録を伸ばしました。8月に行われたトワイライト・ゲームスにて学生新記録、当時日本歴代2位となる13m81を記録。一気に陸上界のトップへと踊り出た船田さんですが、「特に変わったことはしていない」と話します。それにもかかわらず記録が伸びたことに対してはひとつの理由を挙げてくれました。

「意味を考えながら、練習を継続できたことが大きいかも」

意識して、そして意味を考えて練習すれば記録が伸びていくのかのという質問に対して船田さんは「それもあるけれど、ある程度、自分に対して厳しさが必要だと思う」と悩みながら答えてくれました。「追い込みすぎて怪我をしてしまうと意味が無いので、そのバランスをどれだけとれるかが大事だと思います」。船田さん自身、そのバランスのとり方が得意だと感じており、自分の調子の程度は感覚でわかるため、怪我に至る前に練習を止めることができると話してくれました。

毎日の練習時間は17時頃から3時間程度。「どうせしんどいことをするなら意味のある練習をしたい」との言葉からも『練習に意味を持たせる』という船田さんの徹底ぶりが伺えます。また、動作のコツを掴むのが得意という強みを生かして「強い選手と見比べてどこを意識して動かせば良いのか、どこに力を入れたら良いのかが分かります」と話してくれました。アップのルーティンも持っておらず、「その日の身体の調子を見て、気になるところの動き作りをいれるようにしています」と、自分の『感覚』を頼りながら練習に取り組んでいます。

4.ちょっとしたご褒美も

普段の食生活では甘いものを控えることを意識し、食べたくなったら量を決めるようにしているそうです。でも、試合後2日間は例外。「チートデイにして自分が好きなものを好きなだけ食べます」。栄養面ではタンパク質をしっかり摂るようにし、サプリメントを取り入れるなど工夫を行っているそうです。また、飲み物にも気を使い、お酒と炭酸は飲まないようにしていると話してくれました。「けれど、ほろ酔いの新作が出た時にはストックして、冬の飲んでも良い日に飲みます」と笑顔で話し、アスリートの顔の裏に女子大学生さも垣間見えました。
練習がオフの時は家で過ごし、絵を描いたりギターを弾くことが多いそうです。自分を表現できるものが好きだと話します。

5.「憧れられる」選手に

第100回関西インカレでは大会新記録で圧巻の優勝を飾った船田さん

今春、武庫川女子大学を卒業し、同大学の大学院に進んだ船田さん。大学陸上をあと2年続行します。元々、幼稚園教諭になりたいということもこの大学を選んだ理由の1つでしたが、「教育実習に行った時に、生徒に向いてないよって言われて。自分でも納得しました(笑)」と、大学院卒業後の進路は迷っている様子でした。

取材の際、調子を合わせていきたいと話してくれていた4月下旬の日本学生陸上競技個人選手権大会。自己ベスト更新とはいかなかったものの、12m96の記録で貫禄の優勝。今夏、中国・成都で行われるFISUワールドユニバーシティゲームズの代表選手に見事内定しました。その後、関西インカレでは大会新記録を樹立し優勝。シニアの選手も混ざり接戦となった日本選手権では3位に入り表彰台に立ちました。「三段跳はただ単に自分が跳べるから楽しい」、同時に、「停滞した時にどう向き合うかが勝負になる」と話してくれました。先日行われた、2023オールスターナイト陸上(第63回実業団・学生対抗陸上競技大会)では、セカンドベストとなる13m59の記録で3cmの接戦を制し、見事優勝されました。
先述の日本選手権において、船田さんが憧れている森本麻里子選手(内田建設AC)が14m16cmの日本新記録を樹立するなど、近年ハイレベルな戦いが続いている女子三段跳。

「憧れの存在となれるような選手になりたい」

初の世界大会となるワールドユニバーシティゲームズをステップに、船田さんは14m台を目標に跳び続けます。

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