京姫鉄道合同会社 第1期の決算を終えました

京姫鉄道合同会社 第1期の決算がようやく終わりました。
決算公告は当社Webサイト上に掲載しました。

合同会社なので本来は決算を公表する義務はないのですが、クラウドファンディング等で皆様のご支援を受けていますので、透明性確保の観点から公表することとしました。

せっかくなので、今回悩んだ点を記録に残しておきたいと思います。

会計のド素人が決算を……

決算を終えてみて思うのは、会計って奥が深く、正しくやろうと深く考えれば考えるほど迷子になってしまうということです。

本当は決算申告関係は税理士さんに丸投げしたかったのですが、どれだけ安い報酬額を設定している税理士さんでも10万円以上は必要となります。まだそれほど収益が出ていない京姫鉄道合同会社で、その出費はかなり痛い金額です。

そこで、決算と申告書の作成は自分でやって、税務相談と決算書の内容のチェックだけ税理士さんに依頼するという形にしました。

元々OPAP-JPでNPO会計基準での会計は経験していました。しかし、NPO会計基準で非収益事業を行う分には「売上」という概念は登場しません。決算書の表示も、寄附等をどのように使ったかという観点に重きが置かれていました。

以下がOPAP-JPの決算書です。売上という言葉が登場しませんね。

受取寄附金は売上ではないので、売上原価も存在しません。そのため、「この寄附金に対応する原価はいくらか」なんてことは考えなくてよかったわけです。

ところが、会社などの営利法人の会計では、売上がどれだけで、それに対する原価はどれだけで、結果どれだけ利益が出たかという点に重点が置かれています。このギャップにかなり困惑しました。

頭を切り替えて、これまで経験したことのない「売上」にどうやって対応するかという点で、1年を通してずっと悩み続けていました。

悩ましい売上計上日

京姫鉄道合同会社では「中小企業の会計に関する基本要領」(中小会計要領)を会計基準に採用しています。(混同して初版の決算書では「中小企業の会計に関する指針」と書いていたのですが、「中小企業の会計に関する基本要領」が正しい記載です。修正して差し替え済です)

とはいえ、中小会計要領には、原則的なことしか書かれておらず、個別具体的なケースには言及されていません。

「実際に入金があった日に売上を計上する」(現金主義)という基準であれば簡単なのですが、中小会計要領では『収益と費用は、現金及び預金の受取り又は支払いに基づき計上するのではなく、その発生した期間に正しく割り当てられるように処理することが必要』とされています。

一般に、会計的には売掛金が発生した日に計上しなければなりません。売掛金というのは「売ったけどまだ支払ってもらっていない代金」です。じゃあ、その「売ったけどまだ支払ってもらっていない代金」っていつ発生したのか……。実はこれが難しい問題です。

個人事業主や小規模企業の実務的には「請求書を発行したタイミング」ということも多いですね。ただ、この基準は会計基準的に認められているわけではなく、その上、京姫鉄道合同会社では、人手不足から請求書をわざわざ発行しないことも多いため、この基準は採用できません。

そこで、中小会計要領でも言及されている「出荷基準」(『売上高は、製品や商品を出荷した時に計上する方法』)なら簡単だろうと出荷基準を採用したのですが、これはこれで悩ましいことが多く……。

<原稿料>
まずは、原稿料などの収入の処理です。すべて出荷基準で統一するため、原稿料などの受託制作関連の売上も初稿引渡日に計上することにしました。検収基準にすることも考えましたが、必ずしも取引先から検収書をいただけるとは限らないことから、原稿料だけ検収基準にするのもかえって面倒だと思われたためです。

初稿引渡日であれば、メールの日付が残っているので、後日、税務調査があったときに証拠として提示することができます。

<書籍執筆>
しかし、そこで問題になったのが、書籍執筆のケースです。

印税と名前は変わりますが、少なくとも初版印税については、実態として一般の原稿料と同じように受託制作の一種です。

しかし、問題は、初稿引渡日には発行部数が確定していない=印税額が不明というケースがあるということです。もちろん、将来の重版・増刷も未定です。したがって、出荷日(初稿引渡日)に正確な金額を計上することはできません。

実売印税のケースだと発売日になっても印税額が不明なため、さらに難しいですね。

そこで、契約の違いや、重版・増刷の場合の印税も統一的に扱える計上基準を考えた結果、「原則は初稿引渡日に計上するとしつつ、部数未定の場合は発行部数確定日に計上する」という基準を決めました。

<クラウドファンディング>
さらに難しいのはクラウドファンディングのケースです。

元々OPAP-JPの「こうしす!」が非営利プロジェクトであることもあり、京姫鉄道合同会社の「こうしす!EE」 関係のクラウドファンディングでも寄附金に近い性質の支援金を募集しています。

したがって、返礼品を除けば、実態としてそもそも出荷とか納品とかの概念もなければ、役務提供完了日という概念もありません。返礼品だけに着目すれば、通常の売買取引と同じように出荷日がありますが、恐らくその売上に対応する費用は返礼品の原価のみです。

そこで、クラウドファンディングについては、原則としてクラウドファンディングの支援金募集終了日に全額を売上として計上し、例外的に返礼品の提供が期を跨ぐ場合のみ、未提供の返礼品に関して出荷基準とすることにしました。


デジタルコンテンツをどう資産計上するの?

第1期はすべて少額減価償却資産(30万円)の特例の枠内に収まったため特に考えなくても良かったのですが、アニメや漫画といったデジタルコンテンツはどう計上すればよいの?という問題です。

ヤマハ発動機の広告宣伝費の事例なども考えると、少なくとも2年で償却する必要があると考えられます。

とはいえ、何の科目で申告するのかというのは難しい問題です。

例えば映画の場合は棚卸資産に計上する場合や、映画フィルムとして2年償却の器具備品扱いで処理する場合があるようです。

デジタルの複製元データはどちらかというと固定資産的な性質がありますので、棚卸資産にするのは違和感があります。しかし有形物であるかのような処理を行うと、「実際には存在しないフィルムに固定資産税(償却資産税)が課税されるのか否か」という問題が発生します。

(※税理士さん経由で京丹波町に問い合わせた限りでは、その場合は無形固定資産と同じように扱われると思われるとのことだが、イマイチ確証を得られた感じがしない)

そこで、税理士さんと相談した結果、決算書上はコンテンツ専用の科目を用意して処理しつつ、税務申告上はソフトウェアの一種として申告し定額法で3年償却するという方法とすることにしました。

コンテンツとソフトウェアの境界というのは曖昧ですが、デジタルデータも広義のソフトウェアで、しかもホームページに掲載するものなので問題がないだろうと自分では考えています。

会計上の科目名は以下の記事を参考に「コンテンツ資産」「コンテンツ資産仮勘定」とすることにしました。

ちなみに、アニメーション制作会社で似た会計処理をしていると思われるのは株式会社ゴンゾです。株式会社ゴンゾの決算公告では「コンテンツ版権」「コンテンツ版権仮勘定」として記載されています。(税務上ではどうしているのかはわかりません)


注意

もちろん、ここまでの内容はあくまでも京姫鉄道合同会社では実態を鑑みてこのようにしたということであって、全てのケースにおいて正しい会計処理とは限りません。会計士さんや税理士さんに必ず相談してください。

ルール化

会計には「継続性の原則」というものがあります。

会計基準によっても異なりますが、京姫鉄道合同会社が採用する中小会計要領にも『会計処理の方法は、毎期継続して同じ方法を適用する必要があり、これを変更するに当たっては、合理的な理由を必要とし、変更した旨、その理由及び影響の内容を注記する。』と記載されています。

そこで、今回の処理を忘れずに継続的に適用できるよう、会計基準細則を定めることにしました。

## 第2条 売上計上基準

1. 当社の売上計上基準は出荷基準とする。
2. 前項に関して、商品・役務別の売上計上日については、以下の各号に定める通りとする。
   1. 電子コンテンツ販売については、購入者がダウンロード可能となった日に計上する。
   2. コンテンツ受託制作については、成果物の初稿納品日(電子データの場合は送信日)に計上する。
   3. 書籍印税については原則コンテンツ受託制作に準じて初稿納品日に計上する。ただし、初稿納品時点で発行部数が確定していない場合や、重版・増刷の場合は、発行部数確定日に計上する。
   4. クラウドファンディングにより受領した支援金については、個別の役務に関する収益ではなく、当該事業全般への支援金と認識し、支援金募集終了日に計上する。ただし、返礼品の提供が期末時点で完了していない場合は、未提供の返礼品の原価相当額を前受金に振り替える処理を行い、翌期の返礼品出荷時点の売上に計上する。
   5. 終了期日のない継続的なクラウドファンディングにより受領した支援金は、支援金の受領当月に計上する。

(略)

## 第4条 コンテンツ資産に関する取扱
1. 10万円以上の映像作品、文芸作品、コミックス、3Dモデル等のコンテンツは、コンテンツ資産として定額法で3年償却とする。ただし、少額減価償却資産の特例を適用する場合は、1年で償却する。
2. 前項のコンテンツ資産のうち期末時点で未完成のものは「コンテンツ資産仮勘定」を用いる。

変更履歴もきちんと分かるよう、こうした規程類はGitでバージョン管理することにしました。

最後に

元々、税務申告のことだけを考えれば、「期中現金主義・期末発生主義」という「年度内で帳尻さえ合っていればいいや」という方法を採用することもできました。最初はそれでいいやと思っていたのですが、そういうわけにもいかない事情が発生しました。

京姫鉄道合同会社も今般の感染症の影響を受けています。技術書典8の中止という直接的な影響だけでなく、初出版の本の売れ行きも打撃を受けているという間接的な影響もあります。2020年度中は次回作の出版というのはほぼ絶望的な状況と思われます。

こうした状況でも事業継続できるよう、金融機関や行政の支援を受けることにしました。しかし、そのためには支援機関に月次推移表を提出する必要があります。そのため、正確に記帳するということに心血を注ぐことになりました。

(※ただ、外注費に限っては、源泉徴収事務の都合と、それに関連する会計ソフトの仕様上の制限の都合で期中現金主義に近くなっています。これは来年度の課題ということで……)

とはいえ、こうした処理は、どこまでいっても素人の付け焼き刃でしかありませんので、念のため、支援機関には、提出書類と一緒に会計基準の説明も付すようにしています。後で揉めたくはないので、問題があれば審査の際にきちんと弾いてもらいたいですからね。

終わってみれば色々勉強になったなと思いますが、かなり疲れてしまいました。次年度からは、ある程度うまく力を抜いていけるかなとは思いますが、それでも大変なのは変わりないと思います。

一人の作家としては、金勘定に気が取られて作品制作に注ぐ気力が削がれるというのは本当に良くないことだと思っています。

早く税理士さんに丸投げできるようになりたいというのが正直なところですね……。