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SWITCH vol.2「自らを導こう!」 伊藤羊一さん


いばふくの登壇者の“人間くささ”……!?


いばふくを主催するメンバーのひとり、〈こばこね〉がこんなことを言った。
「伊藤羊一さんはなんていうか、すごく人間くさいんだよね。自分の失敗も隠さずに教えてくれる。だから好き。いばふくの講座に登壇してくれる人たちとは、応援し合える関係でいたいと思ってるの」

〈こばこね〉とのおしゃべりのなかで、心に残った言葉だった。
この度の登壇者こそ、伊藤羊一さん。どんなひとなんだろう?
いばふくの講演に足を運ぶ。

***

会場でマイクをにぎった伊藤羊一さん。自己紹介をはじめる。
伊藤さんはYahoo! 、ZOZO、LINE、paypay、アスクルや一休などといった会社がグループ会社となっているZホールディングス株式会社の「Zアカデミア」の学長を務める。企業の中で学ぶ場をつくっている。

著書である『1分で話せ』は60万部を売るベストセラーに。
「だけど、すぐにわかると思うんですけど、話長いんですよね、僕。“1分で話せない伊藤”と呼ばれています」
……え、そんなこと言っていいのか。身構えていた気分はすっかり落ち着きました。これから羊一さんって呼んじゃおう。

羊一さんは武蔵野大学において日本で初めて誕生した「アントレプレナーシップ学部」の学部長でもある。
アントレプレナーシップとは、起業家精神を指す。

輝かしいキャリアをもつ羊一さん(ここで紹介しきれていないこともたくさん)。〈こばこね〉の言っていた、「人間くさい」ってどういうことだろう?
羊一さんの自己紹介に圧倒されていると、スクリーンに文字が映し出された。


「Lead the Self(自らを導く)」


Lead、リーダーという呼び名がある。会社の役職やプロジェクトリーダー、茨城を牽引するリーダー、サッカーチームのリーダー、バイトリーダー……あらゆるものを導く人がリーダーだ。
羊一さんは言う。
「何かを、そして誰かを導こうとするとき、まずは自らが自分自身を導けているかどうかということを、胸に問うてみてほしいです。『これやりたい!』とか『これすげえ!』という、心が燃えることを育てていってほしいんですよね」

起業家に限った話ではない。自分で気づいて、自分を知ることはあらゆる人にも通じる話だ。

10代から20代。羊一さんは自身をふりかえり、うまくいったとは言えない人生だったと言う。
羊一さんのうまくいかなさを、勝手に箇条書きにします。

  • 高校のときに所属していたテニス部をクビになる(学校のクラブは人数が多く、練習する場所もなかったため、自身で通っていた地元のテニスクラブで練習していた。それがバレてクビに)

  • 同時期に付き合っていた女の子にフラれる(しかも、付き合っていなかったことになっていた……! お別れはちゃんとしようぜ泣)

  • その後、グレて高校では中途半端な不良に(「別に〜」を連発する高校生だった)

  • 「別に〜」を連発する大学生になる

  • 就職では銀行員になるも、やる気のなさは変わらず

  • 同期の中で成績がワースト4位になる(同期は200人くらいいた)

  • 朝会社に行き、退勤後は圧倒的飲酒。帰宅後はゲーム、明け方まで。こんな生活サイクルが続く

  • 26歳のときに、会社に行けなくなる(玄関に立つと具合が悪くなる。当時は、サボり病だと思った。メンタルがやられているとは、わからなかった)

ここまで赤裸々な過去を躊躇せずに教えてくれるのか。羊一さん……。今でも思い出したくないと言いながら話してくれた。
けれど、現在のキャリアになるまでの逆転ストーリーがあったはずだ。
それもこちらに、ご紹介しちゃいます!

  • メンタル最悪な銀行員に唯一、頼ってくれた不動産会社の人がいた(貸出案件といって、お金を貸す仕事。当時はバブル崩壊後で銀行はどこもお金を貸さなかった)

  • 毎日毎日電話をかけてきた不動産会社の人のために、課長に「この貸出案件ってどうやればいいですか?」と聞きに行った

  • 課長が驚いて「みんな聞いてくれ! 羊一がやっとやる気になったぞ! この件、みんなでフルサポートしてやれ!」とチームに共有してくれた

  • 銀行員として初めての貸出案件を担当

  • 数年後、お金を貸した不動産会社が建てたマンションを見に行く。そこから出てきた家族連れの笑顔を見て、号泣(この人たちの笑顔の0.3%くらい関与していると思うと涙が止まらなくなった。1時間その場に立ち尽くして泣いた)

  • 仕事の醍醐味を知る

「別に〜」を連発する羊一さんはもういない……! こうして、いまの羊一さんにつづく人生の道が開けていくことになる。

ライフラインチャートを描いてみよう!


講座の中で、物語のように綴られる羊一さんの人生ストーリー。けれど、これは前出の「自らを導く」ための方法のひとつなのだ。
人生ストーリーは誰もがもっている。これまでをふりかえること、それを人に話すことは、自分を知ることにつながると、羊一さんは言う。

ここでライフラインチャート※というものを、参加者皆で描き、それを隣の人と共有する時間をもった。

※ライフラインチャート……自分のこれまでの人生をふりかえり、いつどんな出来事があったのかと、その時の自分の幸福度・充実度はどのくらいだったかをチャートで表したもの。自分の人生の上がり下がりを可視化することで、自己理解を深める。

羊一さんのライフラインチャート


わたしもやってみました。
思い出すことの中は辛い場面もあるが、この地点からV字回復したよな〜とか、あの人のおかげで……といい思い出も浮かんでくる。さらに、できあがったライフラインチャートをとなりの席の人に見せ、話を聞いてもらえたことで、気持ちが軽くなったように感じた(あんまりにつらい過去は封印してよし)。
隣の人のこれまでの人生を聞くことで、人と人の距離が縮まったような気がする。お互いに理解する・されるって、こんなに嬉しいことなんだ……。

「言葉にしてみるってことが大事ですね。つまり、人と話をしてみる。あのね、考える時に、頭の中で考えるだけだと、思考っていうのはまとまらない。 頭の中でかけ巡って悩んでいるだけ。言葉にしながら、対話するってことで自分のものになっていくんですね」

わたしたちは日々、選択をしながら生きている


自らを導く。リードするために必要なことは、決めること。
この仕事をつづけるか。
この人と結婚するか。
家を建てるか。
生命保険に入るか。
今日のランチに何を食べるか……?
わたしたちは、さまざまな意思決定をしながら、今を生きている。

「人生はB・C・Dだ」
B=Birth(生まれ)
C=Choice(選択し)
D=Deth(死ぬ)

哲学者・サルトル

さてひとは、人生の中の選択肢からどうやって選んでいるのか? 決めているのか?

自分の想い、「ゆずれない思い(信念/使命感)」にしたがって決めるのがいいと、羊一さんは言う。

「中には、『ゆずれない思いはないわ〜』という人もいるかもしれない。ないからダメって話じゃないんですよ。今、自分の想いがある人もない人もいる。ない人は自分では気づいていないだけで、本当はあるのかもしれない。
たとえば、すごくいい気持ちになったとき、とか、嬉しい気持ちになったとき、自分の中にあるものを、自分と対話しながら、育てていくことが大事だと思います。最初は仮置きでもいい。仮説をたくさんたててみましょう」

自分のゆずれない思いとは何か? を意識して考えて感じて、それを言語化する。
そのうえで、自身を成長させる大切なサイクルがあると言う。

「これは氷山です。これは、みなさんの『仕事力』を表しています。一番上の目に見える部分が『行動』で、その水面下には『技術(スキル)』と『思考(マインド)』がある。見えないけれど、水面の下で大きな役割を果たしています。
『行動しろ』ってよく言われますよね。だけど行動して成長するっていうだけではないんです。行動の下にある『スキル』を磨きたい。
そして……、一番大きく存在しているのが『マインド』です。
たとえば、『スキル』。僕のお袋は80代なんですが、この間両足骨折しちゃって、ほとんど歩けない。風呂に入れるのが大変なんです。その点、福祉を生業にする人たちはすごいですよね。お袋を風呂に入れることをちゃちゃっとやっちゃう。身体が不自由な人を風呂に入れることは『技術(スキル)』。うちのお袋が言っていることを聞き取って意味を汲み取れるのも『技術』なんですよね。コミュニケーションをとるのも『技術』。
この『行動』と『スキル』を支えるのが『マインド』です。壁にぶち当たったとき、揺るがないマインドがあるといい。だからこそ、情熱をもって仕事に向き合うこと、一生懸命に取り組むことが効いてくる」

「行動」「スキル」「マインド」は別々なものではなく、それぞれをつないだサイクルとして動かしていくことが重要だと、羊一さんは言う。
「それぞれを鍛えるだけでなく、自分の『行動』をいかに『スキル』や『マインド』に反映させるかも大事です。そのためには『ふりかえり』が必須」

羊一さんの考える成長サイクルは、こうまわす。

① 行動したことで、印象に残ったことを言葉にする
② 「それは何? なんで?」と自問自答する(意味を見出す)
③ 「そっか!」とか「おお!」という気づきを得る
④ そのうえでやってみる(行動につづく)

「現在やっていることの積み重ねが未来になる。ふりかえりを実践することで、ひとは必ず成長します。まずは、1年間を目指してやってみよう!」

「成長サイクル」をやってみた


ふりかえりを実践するための具体的な方法として、羊一さんは『1行書くだけ日記』という本を出していた。

この日記をつけてみることに(現在3日目)。
日記には
① やったことを書く
② それは自分にとってどんな意味があるのかをふりかえる
③ 「そうか!」と気づく
④ 次のアクションを考える(計画)
を書いていく。
講座で羊一さんが教えてくれたことと同じことだ。

1行日記やってみた〈1日目〉
① 進んでいない原稿に取り組むため、出版社の多い街・神保町へ。入った喫茶店では作家と編集者が打ち合わせをしている
② 本を出すための話を横で聞きながら、「自分もがんばるぞ!」とやる気を出せた
③ 目の前に抱えている原稿も大切な仕事のひとつだと気づけた
④ 作る、生み出す人の多い神保町で作業することで、モチベーションアップにつながる。引きつづき神保町で作業しよう

1行日記やってみた〈2日目〉
① ふたたび神保町に行き、原稿を書く。ランチも合わせて3軒のカフェと喫茶店をはしご
② さまざまなお店に入り、そこにいる人々を観察。お昼時になるとランチ休憩の会社員で店内は満席に
③ 会社員でいつづけることを選ばなかった自分に気づく
④ フリーランスであることに誇りをもちつつ、引きつづき自分に心地のいい作業場を開拓していこう

1行日記やってみた〈3日目〉
① 母と妹と映画『バービー』を観る
② 友人から勧められて気になっていた作品。時間が空いたので観ようと二人を誘った
③ 「女」ということで抱えている重石、違和感などがすかっとする言葉で登場。言語化は大事
④ 自分にとっての「女」であることの違和感はなんなのか? 言葉にして語り合いたい

……3日間ではあるが、やってみると全然違うという実感がもてた。
ふりかえることで一日を大切に過ごせるし、自分がどうありたいのか、どう過ごしたいのかが明確になってくる。

***

冒頭の「羊一さんの人間くささ」問題、この行動の変化まで込めて、はじめて共感できたような気がする。
講座の中で、羊一さんは無理強いすることなく、「こういう世界もあるよ」とわれわれに見せてくれた。「起業家精神」なんて言われると、この強い言葉に若干尻込みしてしまう。けれど、羊一さんは自分の失敗談も隠すことなく伝えてくれた。オラオラの人ではないんだ。

失敗の経験があったからこそ、人にやさしく、人と接し続けることを諦めないひとなのかもしれない(学長として、学生と一緒に寮生活をしているなんて、きっと日々ドラマチックだろうし)。

羊一さんの講座について考えつづけたせいなのか(神保町で取り組んでいたのはまさにこの原稿……)、わたしは母と妹とジンギスカン(羊肉)を食べに行きました。


text by Azusa Yamamoto
photo by Nobuhiko  Kobayashi


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