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真夜中の寄り道

2020年夏。
バイト先から自転車で帰る真夜中、少し遠回りをして大学のキャンパスを通るのがいつものルートだった。
暗闇に光る時計台は、この場所に憧れていた1年前と変わらず眩しいまま。
どうにかして「ちゃんとここに来たんだ」と感じたかった。
あのときの私は真っ暗なキャンパスしか知らなかった。

秋頃には生活は充実していた。
相変わらず家から出るのはバイトくらいだったが、打ち込めるものが見つかった。
朝まで語り合うような友人もできた。
「空間」は共有できずとも、「時間」を共有することはできた。

つい数か月前の学校・家・塾の反復横跳びの日々より、ずっとずっと自由だった。
ひとつの白い窓は一人暮らしの部屋からつながる世界を無限に広げた。
まるでナルニア国物語のように。

「コロナ禍」とは何だったのだろう。
バイト先で出会う大人に大学生だと話すと「大変だったねぇ」なんて言われるけれど、コロナのない大学生活を1日足りとも知らない私はどうなんだかと内心首を傾げながら適当に相槌を打つ。

それでも、もっと会いたかった人は確かにいる。
中にはもう二度と会うことができない人もいる。
自分自身は孤独ではなかったが、大切な人を孤独にさせてしまったことを心底後悔した日もあった。
その後悔は一生拭えないかもしれない。

いつの日か夜の寄り道はしなくなっていた。
「憧れのキャンパスライフ」にしがみついている場合ではなくなった。
いま私が先頭に立つこの道が、
振り向けば、酸いも、甘いも、喜びも、後悔も詰まったこの道が、
私だけの3年間なのだ。


#いまコロナ禍の大学生は語る

この文章は、「#いまコロナ禍の大学生は語る」企画に参加しています。
この企画は、2020年4月から2023年3月の間に大学生生活を経験した人びとが、「私にとっての『コロナ時代』と『大学生時代』」というテーマで自由に文章を書くものです。
企画詳細はこちら:https://note.com/gate_blue/n/n5133f739e708
あるいは、https://docs.google.com/document/d/1KVj7pA6xdy3dbi0XrLqfuxvezWXPg72DGNrzBqwZmWI/edit
ぜひ、皆さまもnoteをお寄せください。

また、これらの文章をもとにしたオンラインイベントも5月21日(日)に開催予定です。イベント詳細はtwitterアカウント( @st_of_covid )をご確認ください。ご都合のつく方は、ぜひご参加ください。

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