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国連職員の働き方(シリーズ:○○の生き方・働き方

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i&i Impact Editorial Board
21 March, 2020
by 徳田香子 (Tokuda Kyoko)国連本部・人間の安全保障ユニット プログラムマネジメントオフィサー

国連職員は普通のサラリーマンとは違う?

「国連職員って毎日何しているんですか?」とよく聞かれます。

「心の清い人ばかりが働いていそう」、「世界中の悪い人たちと戦っているの?」など、サラリーマンとかけ離れた世界を思い描いているようです

実際、そんなことはありません

毎日の仕事は、私が外資系IT企業で法人営業をしていた頃とほとんど変わらないと思います。
お客様がいて、目標と予算があって、締切がある、そんな毎日です。
対象が、アフリカやアジアの難民になったり、持続可能な開発目標(SDGs)になったり、貨幣以外の価値にも配慮するというだけの違いです。
上司やドナー、現地政府に怒られたり、他の国連機関やパートナー団体の仲裁にはいることもしょっちゅうです。

言葉も宗教も多様な職場なので、私たちがぼんやりと想像する「常識」は日本に置いてくる必要がありますが、仕事の本質は同じです。
コミュニケーション力、問題発見・解決能力、リーダーシップなど、求められる基本スキルは日本の会社と変わりません

ただ、昭和の居酒屋でよく聞くような「親と上司は選べない」、「失敗しても死にはしないから思い切ってやれ」といった常套句は当てはまりません。(数ヶ月から一年という不安定な雇用ですが)望まぬ転勤はなく、(数十から数百倍の試験に受かれば)働きたい国や仕事内容を自分で選ぶことができますし、安全確保を怠れば、命の危険にもさらされます。

どんな1日を過ごしているか

私の意外と平凡な一日をご紹介します。

本部編(在NY国連本部)
6時       起床→メールチェック&ジム
7時半      朝ごはん
(8時      急な電話会議がある場合は自宅から電話会議に参加)
8時45分    出社
9時-9時半   ジャマイカの国連人間の安全保障基金案件担当機関(UNDP, FAO, UNEP, PAHO)と電話会議(現地政府との共同視察の日程調整、財務報告書の修正依頼など)
9時半ー10時 アフリカ経済委員会(ECA)(在エチオピア)と電話会議
(共同開催するアフリカ人間の安全保障指標専門家会合の議題・スピーカーの打ち合わせ)
10時-11時  議事録作成→国連内外の関係者にフォローアップ事項を連絡
11時-12時  コロンビアのUNDP・UNHCR・現地NGO、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスと4拠点電話会議(プロジェクト対象地の治安状況の確認・続行可否判断、選挙後の動きと政策の変更点及び住民の反応の確認、現地視察の日程及び面会者の確認)
12時-13時   ユニット長の発言要領の作成(プロジェクト実施国政府、ドナーの関心事項など)
13時ー14時   昼休み(国連本部ビルでの中国語研修もしくは同僚とランチ)
14時-15時   プロジェクトのケーススタディ執筆→ウェブサイト・公式Twitterに投稿
15時-16時    ニュージーランド代表部・国連政務局共催  気候セキュリティ会議出席(各国代表部からの出席者や他の国連機関関係者に対し、太平洋諸島で実施中の気候変動対策プロジェクトの説明・協業可能性の模索)
16時-17時   加盟国の国連代表部(ドナー)と打ち合わせ(UNDPと共同開催する人間の安全保障指標専門家会合についてのブリーフ)
17時ー18時   担当プロジェクトの報告書確認、修正依頼、承認レターのドラフト、プロジェクト資金の送金決裁準備
(21時ー22時 島嶼国(在フィジー)国事務所など、時差が大きい国事務所との電話会議)
出張編(在コロンビア)
4時       起床
5時半      ボコタから国内線で地方都市へ。機内でロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授・通訳と打ち合わせ(現地政府や住民、現地企業へのメッセージの伝え方などのすり合わせ)
6時半      現地到着
7時ー10時   UNHCR, UNDPの現地スタッフと合流。      
国連車輌でベネズエラ難民のホストコミュニティに移動。車内打ち合わせ(治安状況、地域の歴史、住民と政府や企業の関係、難民・先住民・内戦で家族が犠牲になった人々・女性・ギャングに雇われる子ども・LGBTQなどそれぞれの課題の聞き取り、プロジェクト提案時との誤差などを確認)
10時-12時   不法居住者が住むスラム化した丘で、住民30人との会合(上記グループの代表者と現地の大学が出席)各グループが抱える社会・経済・環境など個別の課題のヒアリング、プロジェクトの概要説明、今後の協力体制・役割分担の確認。住民を代表して、更生した青年による自作の歌のお披露目など)
12時-13時半   国境付近に陸路で移動( 道中の野外食堂でカッテージチーズ入りココアなど試食がてら、次に訪問するコミュニティについて、現地職員からのブリーフ)
13時半―15時   農村コミュニティ訪問(原住民、農協、内戦被害者、女性・青年団体などから個別具体的な課題のヒアリング、農作物の販売ルート、企業とのパートナーシップによる輸出の可能性や課題の協議)
15時-16時半   元コロンビア革命軍(FARC)戦闘員が住む山奥の職業訓練センターへ陸路で移動
16時半ー18時   元戦闘員の女性たちが営む食堂で、市長、職業訓練担当政府職員、元戦闘員の男性らと彼らが栽培した農作物(揚げバナナ、鶏もも肉のスパイス焼き、キャベツのピクルス、ごはん、柑橘果物のジュース)をいただきながら、課題や戦闘員になった経緯、今後の展望などのヒアリング。後に女性も合流し、政府・周辺地域住民・家族との関係性についてヒアリング。企業を通じた社会への再統合、周辺住民・被害者への社会・経済的貢献などについて議論。
18時ー21時    陸路(車中でプロジェクト内容・時期の調整についての打ち合わせ、現地企業及びグローバル企業との具体的な連携方法の検討と協議内容のとりまとめ。)
21時ー22時   在コロンビア国連常駐調整官への報告プレゼン資料準備、面会者への御礼メール、NY本部への出張報告など

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↑コロンビア出張での一コマ(元コロンビア革命軍(FARC)戦闘員へのヒアリング)

いかがですか?

4日から3週間の出張の日程は、目的や場所で全く異なります。陸路だけでも往復5時間から(雨季だと)10時間の移動があるため、朝が早く、夜は遅くなりますが、NY本部の私の部署では、ワーク・ライフ・バランスはとても良いと思います。

同じ国連本部の職員でも、お医者さんのように24時間体制のシフトを組む部署もあり、職種によって全く異なる働き方をしているので、同僚の話はいつも新鮮です。


Author:
徳田 香子 (Tokuda Kyoko)
国連本部人間の安全保障ユニット プログラムマネジメントオフィサー


恵泉女学園中高、慶應義塾大学総合政策学部卒業後、2005年SAPジャパン入社。法人ライセンス営業としてグローバル本社のWinners Circle(トップセールス)、日本支社の社長賞など受賞。退社後、外務省際協力局地球規模課題総括課でMDGsに資する企業連携、世銀・UNDPの基金を担当。米イェール大学客員研究員を経て、国連開発計画(UNDP)駐日事務所でパートナーシップを担当、2017年から現職(企業連携、SDGs(特に保健、防災、難民)担当)。国際貢献博士(東京大学総合文化研究科)。

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