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怡庵的 徒然なる日々 寒いコーヒー

「寒いでしょう? ストーブの近くに座って」

つめれば3人は座れるベンチへと促したのは同行のМさんだった。赤ちゃんを前に抱っこして寒風の中、自転車でやって来た母子にさりげなく話しかけたのは自然なことだった。
 
1月も正月気分が抜け、前から行ってみたかった自家焙煎の「たまじ珈琲」への同行を願った。そこは京王井の頭線西永福駅に程近く、コーヒーも飲めるというので期待して出向いた。

改札口から出て歩いてまもなく店は容易く見つかり、来訪の意を告げた。連れがここのコーヒーの味は独特だと聞き及んで取り寄せをしていた。さて、コーヒーを飲もうという段になって驚いた。

冷たい風の吹く屋外にベンチが置かれた場所があり、そこでならということだった。ストーブも置いてあったし。せっかくこまで来たのだからと注文して、前の家族連れが立ち去るのを待って座り、味わい始めた2人だった。知る人ぞ知る名店で個性的な豆が特徴でそれを自慢しながら味わっていたところに赤ちゃん連れの女性が姿を現したのだった。 

風が直接当たらないところへと促した。思うほど時間は過ぎなかっただろうが、Мさんはお母さんと話をしながら優しい眼差しを2人に注いでいた。その人はわが子に心からいとおしそうに慈しみ深く、絶えず話しかけていた。赤ちゃんもご機嫌でずっとにこにこしていた。しっかり防寒してありそうでそれ程寒くはないだろうが。ゆっくりゆっくり赤ちゃんに話しかける。まだ会話は成立していないがお互いに顔と顔を向き合わせ二人の世界を作ってい。何と幸せな赤ちゃんだろうかと。母の愛を独占して育っていくに違いないだろうと感じさせてくれた。

美味しい珈琲が飲みたいからとやってきて、寒さの中で味わう2人に思いがけない出会いをさせてくれたことに感謝した。「偶然」って素晴らしいなあと思いながら。

残ったコーヒーの飲み干し、店に別れを告げた。コーヒーが作ってくれた「偶然」に感謝しながら。

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