Judith Dombrowskiさんによるステファン・ランビエールインタビュー日本語訳(2021.8.17)


 この記事は、2021年8月17日に公開されたJudith Dombrowski氏によるステファン・ランビエールのインタビューを日本語に訳したものです。(翻訳、公開の許可を得ております)
 インタビュー内容を紹介していただいたり、転載、引用する場合は、転載元を示す本noteのURLを付記願います。※全文の転載はおやめください※

ステファン・ランビエール―「僕の生徒たちには、カリスマ性があって情熱的な個性を伸ばしてほしい」

figureskating-online.com

by Judith Dombrowski

ステファンと話をするのは本当に特別な体験です。言葉、笑顔、身振り手振り全てから、彼がどれほど自分のやっていることが大好きかが分かります。フィギュアスケートというスポーツへのエネルギーと情熱を感じられるのです。自身の生徒とスケート教室に対して、深い配慮と愛を彼が持っていると分かります。この対談で、私はたくさんのポジティブなエネルギーとインスピレーションを受けました。読んだ方にもそれが小さな力となって伝わることを心から願います。


ステファン、お時間をいただきありがとうございます。現在、スケート教室でハードなサマーキャンプに取り組んでいらっしゃいますね。サマーキャンプはスケート教室で行っているいつものトレーニング、コーチ業と何が違うのでしょうか?

本当にハードなことをやるのに専念できる、シーズンが始まる前の最後の機会なんだ。一日のリズムは、生徒が6時間のハードなトレーニングを行うという意味ではよりきつい内容になっている。何か新しいものを生徒に与えて、そこから学べるようにしているよ。例えばKhoudia Toureと一緒にHip-Hopダンスをしたり、先週なんかはNicolas Fischerが縄跳びや、他にも生徒が慣れてないものを使った動きに挑戦させていたね。初心者になるという事がとても大事だと僕は考えているんだ。既に知っていることをやるのは心地がいいものだけど、新しい能力を教えてくれはしないからね。だからこのキャンプの間での挑戦は、生徒にハードな課題を与えているけど、更に、ほぼゼロから何かを学び、彼らが自分のトレーニングで使えるようなものを作り上げることでもある。

もう一つではまた、シーズン中、誰もが試合や目標に沿った自分自身のスケジュールがある。サマーキャンプの期間中には、グループに関連していることがたくさんある。だから一日が長くても集団であることを感じ、お互いにモチベーションを上げていくのは良いエネルギーになるよ。

付け加えると、今年は特別な年で、全部で4週間の期間を設けている。最初の2週間は小さな子どもたちのためで、より教育的なテーマに焦点を当てている。例えばスピン、創作、新ジャッジシステム、基本的な回転についてのセミナーを行ったよ。Peter(Grütter)はこういったことに非常に長けてるんだ。そして今、(後半の)2週間では少し上級のスケーターを受け持っていて、彼らのレベルで必要としていることにより特化した内容なんだ。こうやって別々のグループ2つにするのはとてもおもしろかったよ。このキャンプを始めてから7年が経つ。2015年に始まって、コーチとスケーターの間で素敵な思い出が毎年あるよ。素晴らしいspirit(生命力、気力、精神)があって、新しいサマーキャンプ、新しいグループが毎年楽しみなんだ。すごくいい伝統だよ


パンデミックによる、不確かなことが多いオリンピックシーズンが待ち受けています。来たるべきこのシーズンを、あなたとあなたのチームはどのように準備していますか?


 アスリートの多くにとって、オリンピックは主な目標だね。もちろん、昌磨、デニス、梨花たちにとっても、オリンピックを今シーズンの主な目標としてスケジュールしている。だけどそれはスケート教室のうちの3人。もちろん彼らは優先度が高いけれど、同時に僕たちは他のスケーターたちの面倒を見て、彼らにもベストな状態を保てるようにし、そして彼らの目標を助けてあげる必要がある。スケーターたち全員のゴールを実現できるような環境であることが、スケート教室にとって重要だと僕は考えているんだ。そして不確かなことというのはオリンピックだけじゃなく、全てにおいて言えるね。何が起ころうとしてるのか分からない、もしくは試合が開催されるかどうかについては、アマチュアレベルから始まっているんだ。そのアマチュアレベルの試合からオリンピックまで、開催が許可されるのか、何が起こるのか分からない試合の範囲はとても大きい。全て(の試合)が開催されると想定して、僕たちはそのシナリオ通りの計画をする。だけど昨年と、前シーズン、ある日から試合が開催中止になるかもしれない事態に直面して、全てを変えざるを得なかった。もっと別の位置からの視点を持つこと、それと同時に、スケジュールした目的を達成するために必要なことに集中できるようになることを学んだよ。こういった状況下では非常に柔軟でいる必要がある。こうやって僕たちが過ごした年は、たくさんのことを教えてくれたと思うんだ。全員が一歩大きく前進したよ。だけどそれに加えて、調子がより研ぎ澄まされた点にまで到達できるといいね。もっと試合をできるようにしないといけない。そうすればスケーターは競い合って、目標を達成することに自信を持てるから。

(※訳注 We have to get more competitions in the legsの in the legs の使い方が分からなかったので、「より多くの試合をしないといけない」と訳しました)


つまり、この状況下なので準備は普段と違っているけども、オリンピックがあるからそれほど違いはありませんか?


僕にとってオリンピックは本当に4年のサイクルだね。だからそのサイクルはずっと昔から始まっている。僕たちはその4年ごとの計画を練って、一歩一歩最終的なゴールへつながるんだ。

今朝の練習中に、コーチ業で一番大変だけど必要とされることは、生徒に対して心から誠実であることだと教えてくれましたね。もちろん、誠実であることは人生のあらゆる側面において重要ですが、コーチ業においてとりわけ大変なのはどうしてでしょう?


何をおいてもまず、フィギュアスケートはジャッジのいるスポーツだから大変だと僕は考えている。一番高く跳んだら優勝というわけじゃない。フィギュアスケートは更に、芸術的な面で情緒性もある。アスリートの個性がとても重要なんだ。僕がスケートを始めた頃、テレビでスターを見ていたのを思い出すよ。どのスケーターも強烈な個性の持ち主だった。たくさんの女性スケーター、男性スケーターから感銘を受けたよ。そういった人々を見るのはとても刺激的だった。そして、これこそ僕がコーチとして追い求めているものだと思う。カリスマ性のある個性を真に成長させること。それは演技をすること、要素をこなすことだけじゃなく、自分の中の奥深くから来ているもの、情熱を感じること。そうすれば彼らは特別なものになる。見るものに刺激を与えるアスリートであり、彼らを見るだけで全ての世界を忘れてしまうほどなんだ。だけどこれを教えるのは難しい。自分の中にあるものだから。そしてその小さな種を成長させる必要がある。コーチとして誠実であると同時に、配慮も必要だね。僕は本当に、自分の生徒にできる限りのことをしたいんだ。生徒たちの可能性が大きいのが僕には分かるし、快適で安心できる場所に留まっているのも分かる。もしも彼らが成功したいなら、その安心できる場所から出なくちゃいけないし、限界を超える必要がある。それにもちろん――ハイレベルなスケーターであれば――快適で安心できる場所から飛び立つことは、(限界を超えるための)最大限度なんだ。だから本当のリスクになるレベルにまで彼らを押し上げなくちゃいけない。彼らは自分のいる場所であれば既に特別な存在だ。率直に言うと、このレベルでは少々厳しい時がある。だけどこれは意地悪で言ってるんじゃなくて、ただ正直に、最善を尽くしているだけなんだ。生徒には、快適で安心できる場所から出た満足感を理解できるようになってほしい。その満足感はプライスレスだからね。アスリートとして、(その満足感が)自信をつけさせるし、この尊厳こそ僕が彼らに望むことだよ。それがスケート選手としてだけではなく、人間としてより強くさせるし、僕が皆に伝えたい、与えたい価値あるものなんだ。スケートへの情熱だけではなく、自分で決めることと満足すること:YES! こうじゃない:オーケー、僕はやった。だけど:誇りに思うよ!
僕はそうやってきて、もう一回繰り返したい。これまでに感じたことのないものを感じて、それをもう一度体験したいんだ。とても気持ちがよかったし、違いを感じられたからね。

(※訳注 Because hat satisfaction is pricelessとありますが、このhatはthatと思われます)

ネーベルホルン杯で4回転サルコウを降りたデニスのことが思い浮かびました


そう、まさにそれなんだ!あの時の感情は、ワオ、大満足だ(という感じだった)。自分自身のことのようにね。彼らを押したのは僕じゃない。彼らが自分自身でそうさせて、僕はただ導いただけ。彼らには勢いがあるし、僕はただ彼らのために枠組みを作っているだけなんだ。そして彼らが自らの決意でもってその枠を通り抜けていく。だけどこれが芸術なんだ。大きな、大きな芸術だよ。

コーチ業に関連して、あなたは多くのスケーターにプログラムを振り付けされていますね。あなた自身の教室の生徒から、外部のスケーターまで。来たるシーズンにむけてあなたが振り付けたプログラムについて少しお話ししていただけますか?


僕はちょっとだけ振付をしたけど、それほど多くはないんだよ。多すぎるのは好きじゃないんだ。スイスのスケーターやアマチュアのスケーターにも振付を行うけど、どんなレベルでも僕は楽しいね。常に自分のインスピレーションは自由にしておきたいし、自分自身の繰り返しをし始めないようにしている。新鮮であること、自然に湧き出てくるもの、そして誠実である必要がある。たった今思い浮かんだ一曲は、もちろん高志郎のフリープログラムだね――チャーリー・チャップリンで、とてもお芝居のようなんだ。高志郎は僕がとても楽しめるイメージを作り出す。ショートプログラムも同じようにね。ブルース調でとても情熱的、そして解き放たれている。本当に美しい時間だよ。デニスの新しいプログラムもとても気に入っているんだ、特にステップシークエンス――映画「もののけ姫」の"Battle Drums"で――動物的本能にあふれている。デニスはライオンだよ。その瞬間、僕は彼の猫科の雰囲気や動物的本能をを本当に感じるし、それはこのプログラムにおいて実に大切なことだから。それに加えて、バイオリンとオーケストラのための協奏曲の冒頭では少しロマンチックさもある。この曲は「Sarakiz - Romanza」というタイトルで、この協奏曲を最初に聞いた時すぐに気に入ったよ。これを耳にしてデニスがこの曲で滑っているのがすぐに見えたんだ。最初にロマンティックな曲を探していたんだけど、この曲がロマンスの雰囲気や更にパワーも与えてくれた。そのパワーが"Battle Drums"の中で発展するんだ。


本当に不思議なのですが、どうやってこの2曲を繋げようというアイデアを得たんですか?


僕は曲を探していて、(Sarakizの)曲をたくさん持っていたし、自分が好きなのも分かっていたからプログラムに使おうって考えていた。この雰囲気が大好きなんだ。それから"Battle Drums"を聞いてこの曲が好きになって、"Battle Drums"に繋げるロマンティックな曲を探していたんだ。そしたらこの2曲が完璧な組み合わせになったんだよ。


個人的に、その過程はすごく興味をそそられます!


ありがとう。僕はこういうのが好きなんだ――目が覚めた時にビジョンが見える時がある。それで僕はサマーキャンプの展示会(※訳注 お披露目会のようなもの)のフィナーレのアイデアをまとめていた時、生徒のAnnaを語り手にするというビジョンがハッキリした。ただの心の映像だったのに。彼女がサマーキャンプの間でやってきたことを発展させる点でとても理にかなっていたよ。それで全てが一体となって、いい感じだったね。次のシーズンに向けて僕が振り付けたプログラムは、ヤスミン・(キミコ・)ヤマダのショートプログラムがを作ったよ。彼女のスケーティングがずっと大好きで感嘆していたから、彼女と一緒に取り組めたのが嬉しかったね。ケルリ(・リーナマエ、エストニアの選手)のショートプログラムも振付をした。ちょうど今サマーキャンプに来ているんだ。エストニアのジュニアスケーターのフリープログラムもしたし、もちろん(宇野)昌磨もね。ボレロとショートプログラムにマイケルの曲で振付したよ。ちょうど今日本でやってるんじゃないかな (アイスショーのTHE ICE)。多分そのうちオンラインで見られるかもしれないね。リハーサルの動画を見て、とてもワクワクしたよ。試合で完成品を見られるのが楽しみだよ。

宇野昌磨は五輪でメダル候補の可能性がありますが、五輪への取り組みで何に集中していますか?


「昌磨はfighter(戦士)だ。複雑な技術コンテンツを身につけて欲しいね。そして彼の待つ能力全てのコンビネーションも。彼はジャンプだけじゃなく、まさしく三次元的なスケーター。感情豊かで、強く、カリスマ性があって人を惹きつける。複雑な技術内容を、これらの面とともに演技してほしい。これが、僕たちが取り組んでいる事だよ。昌磨はこの上なく強い人間なんだ。

あなた自身のスケートについてお話ししましょう。スイス・中国人作曲家のMélodie Zhao氏による「Love instead」のミュージックビデオに参加されましたね。このコラボレーションに至ったのはどうしてなのか、この曲のメッセージはあなた個人にどんんな意味がありますか?

僕が彼女とどうやって出会ったかの話から始めよう。運命って本当に信じられないものだから。去年、日曜の夕方にサマーキャンプが終わって、ここシャンペリーで福間洸太朗のピアノ・コンサートがあったんだ。だけど、コロナの影響で彼が来れなくなって。それでMélodieが代理で出演した。サマーキャンプの最後に行ったコンサートがとても刺激的で、彼女の音楽はとても力強くて美しく、そしてコンサートの間に彼女が話した内容も――彼女の情熱は、とても人から人へ広がっていくんだ。それでコンサートの後に僕たちは話をしたんだ。高志郎とIsold(Fönn Vilhjálmsdóttir)も来ていたよ。彼女と語り合えたのは素敵な時間だった。僕たちは連絡先を交換しあって、数ヶ月前に彼女から僕に連絡があった。このアジア人ヘイトに対する抗議活動が始まる時に。彼女は自分のコミュニティのために、音楽を通じて何かをしたかったんだ。通常、僕はどんな政治運動の代弁者にもなりたくはないんだ、だけどその……僕の母親はスイスに住んでいるポルトガル人で、父親はスイス人。僕は2つの国のミックスなんだ。スイスでポルトガル人でいるのは簡単なことじゃないと言える。なぜなら、全ての国にはそれぞれの愛国心があるからね。だからポルトガル人である僕の母親は、ポルトガル語で僕たちに話しかけることをとても恐れていた。母は、学校での僕たちを、外国人ではなくスイス人として受け入れてほしいと思っていたから。だから僕はその感情を思い出して、人々にこの判断を下すのが難しい時もあるんだと完全に理解できたんだ。
だから、Mélodieが僕に連絡してきた時、何よりもまず芸術的な面で彼女と一緒に仕事をしたいと思ったんだ。僕は演じるのも、音楽も、Mélodieの活動も大好きだから彼女と何かをやってみたかった。そしてもちろん、人種差別と戦う人々を支援する活動も。(人種差別は)僕には受け入れられないものだから。これが僕が(依頼を)引き受けた理由だよ。彼女とコラボができてとても嬉しかった。ここシャンペリーに彼女がやって来て、自分で曲を書いて、デモンストレーションを僕に見せてくれた。こういった経緯で何かをすることは本当に素敵なことだったよ。 


あなたはご自身のプログラムを準備し続けているのでしょうか?近々、願わくばアイスショーでそれを見せていただけることはありますか?


イエス、実はちょっとした秘密を教えてあげられるけど、まだ多くのことは言えないんだ。この火曜日(8月3日)からアイスショーに向けた作品のいくつかに取り掛かるところだよ。もうしばらくしたら、もっと詳しいニュースが出るよ。(アイスショーの)予定があって、作品が一つに集結する時が来ることが、本当に幸せだね。


そのお知らせは私を、そして――これは絶対に――皆をとても、とてもハッピーでワクワクさせてくれますし、喜びと期待をもってお待ちしています。改めて、時間を割いていただきありがとうございました。あなたとあなたの生徒さんたちが次のシーズンに向けて全力を出せますように。


翻訳は以上です。許可してくださったJudith Dombrowskiさん、ありがとうございました!シーズンが始まる前のステファン先生とそのチームについて色々知ることができて嬉しかったです。

Thank you so much Ms. Judith Dombrowski ! It's so excited to read before The Olympic season starts.
I really appreciate your kind heart and allowing me to translate.

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