【短編】月のみこは、たまゆらに。 ー前編ー #note創作大賞応募作
ーーその瞬間、彼女はこの世でもっとも美しいものを見たと思った。
彼女ーー若菜は、大巫女に言い付けられたお遣いのためにいつもの居所を少し離れたところまで来ただけのつもりだった。
今日は月が明るいな、なんて思いながら呑気に歩いていたら、今まで聞いたことのない笛の音がしたのだ。
微かに聞くだけでも、風雅な名人の調べだとわかるほどにその音は澄んでいた。
つい、若菜の好奇心は引き寄せられてしまった。
この神社にそれほどの笛の名手がいたとは。それどころか、こんな奥まった所に人が住んで