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僕にその手を汚せというのか、という話

副題:タクティクスオウガのカセットを見つけてしまった件について
先日の投稿に対し、あらぬ方向から需要が来たので結局書く羽目に。

もう20年近く前の話になる。
2002年の春。当時11歳だった私は、ある日母親と共に当時行きつけだった地元の美容室のオーナー夫妻の家に招かれた。確か、手作り餃子かお好み焼きをやっていたと思う。
当時オーナー夫妻に子どもはおらず、当然のように食後は私一人だけ暇になってしまった。「あぁ、こんなことなら、予めゲームボーイを持ってくるんだった」と手持ち無沙汰感が全身に迸る。なにせ、当時はゲーム大好きボーイである。是非もない。

そんな私の様子を察してか、旦那さんの方が家の寝室に案内してくれた。部屋の角側にはテレビがあり、その下のデッキにはスーファミが置いてあった。「どれでも、好きなゲームで遊んでていいよ」と、声をかけてくれた。

当時はNintendo64全盛期(ゲームキューブはまだ普及していなかった)だったが、スーファミもまだまだ現役であった。ゲーム機のすぐ隣に置いてあるカセットケースに手を伸ばす。中には大体15~20カセット位あったと思う。
何か面白そうなタイトルはないだろうか、という期待とは裏腹に、中身は半分以上がスポーツものだった。当時生粋のスポーツアレルギーだった私にとっては辛いことこの上ない。両親に半ば強制的に入れさせられた少年野球チームだって、3日と経たずに辞めている位なのだ。
この中には特に目ぼしいタイトルは無いかもしれない……そんな考えがふと頭の中をよぎったのと同時に、これまで見たカセットとは明らかに雰囲気の違うものが、そこに一つだけあった。

そのカセットにはこう書かれていた、『Tactics Ogre -Let Us Cling Together-』。
繰り返すが、この当時の私は11歳である。"Tactics"の意味も、"Ogre"の意味も分からないけれど、それでも、手に取った瞬間に無意識に理解した。こいつは、十中八九、RPGだろうと。
私はそのままカセットをスーファミ本体に差し込んだ。まるで何かに導かれるかのように。
否、実際のところ、導かれていたのかもしれない。
数あるカセットの中から私がそれを手に取るのも、その後長期間に渡って何度もプレイするのも、その世界観に魅了され、引きずり込まれ、厨二病を発症し、挙げ句の果てに暗黒面(ダークサイド)に堕ちるところまで。全部。

この当時、"Harry Potter"も"Lord of the Ring"もまだ公開前であった。架空の地域を舞台にした剣と魔法の世界。対立する勢力とそれぞれの思惑、人間模様。たった1回の決断が、その後の社会情勢を左右するだけでなく、自分とその周囲の人生に(生死も含めて)大きく影響する物語。それまでまともにプレイしてきたゲームといえば、ポケモンとかチョコボとかばかりだった私にとって、その出会いはあまりにも衝撃的過ぎた。
そしてそれが、後々の私にとって致命的でもあった。

一体何が致命的だったのか。
通常であれば、"ゲームの世界と現実世界は違う"と頭では理解しているのに、理解していたはずなのに、本作に関してはあまりにもその世界観にのめり込み過ぎて、普段の生活や感情、思考まで影響されてしまった。侵蝕と言い換えてもいいかもしれない。
平たく言えば、厨二病の入口だった。

例えば年齢。
ゲーム内のLvに換算するようになった。当時11歳だった私はLv11。付け加えれば本作は4章構成で、1章はLv8、2章がLv15、3章がLv23、4章がLv32程度でそれぞれクリアするので、それになぞらえて「人生の分岐点も8歳、15歳、23歳、32歳前後にそれぞれ待ち受けているのだろう」と勝手に考えていた。
確かに今振り返ってみると、8歳の記憶はほとんど無いため割愛するとして、15歳と23歳では大きな転換期を迎えていた。そういう意味では、やはり次は32歳前後になるのかもしれない。

他にもある、所持品。
普段身につけているものを装備品に置き換えるようになった。確かこの頃は青系のスキーウェアを冬季の通学時に着ていたと思うが、「こいつは炎属性Res値+10の補正が付いた鎧装備で、WTはそれなりに伸びてしまうものの、使い勝手は比較的高く云々」などと考えたりしていた。

そして何よりも、進路。
自分自身の選択肢、身の振り方一つで評判から人間関係から大きく変わってしまう本作では、どう生きていくのかがとても重要になってくる。
では、私は?どう生きていくつもりなのか。何を修め、何を生業として、何のために生きていくのか?そんなことを、この頃から少しずつ考えるようになった。
この世界に"ステータス画面"なんて無い。自分の能力が数値化されている訳ではないし、どんな職業に就けるか、就くか、何を得手とするのかは自分自身で見い出さなければならない。
そのために私が取った方法は、自分の周囲にいる人をよく観察し、それをキャラクターのステータス画面としてデザインすることだった。
「華奢だからSTR値やVIT値を低めにしてAGI値を高く設定しよう」とか。「宿題や提出物はきちんとしているし、先生との受け答えもとても丁寧だから、アラインメントは確実にLだろう」とか。「立ち位置的に飛び道具が好きそうだし、クラスはアーチャーで装備はボウガンかな」とか。

今でこそ、こうして文章に書き起こすことができたけれども、
それと同時に、凄まじい恥ずかしさというか、うまく言語化できない感情が未だに渦巻いている。

「よぉし、このネタはおまえたちにくれてやる。好きにしろッ!」
「さっすが~、案山子様は話がわかるッ!」

#雑記 #タクティクスオウガ #僕にその手を汚せというのか

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