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失恋しても、部屋は狭い。

失恋しても部屋は狭いままだった。

 卓上のメモ帳に残されていたこの言葉。きっと自分のペンで書かれたものなんだろうけど、覚えていない。いつ書いたのか、どのような状況で書いたのか。どれだけ酔っ払っても記憶を飛ばすタイプでもないし、なんなんだろうかこの言葉…同じように、私の部屋には、記憶にはないけど私が残したに違いない言葉がたくさん転がっている。

 ギターケースの中に取り残されていた言葉を見つけた。

パンクロックずるい。

 多分この書き置きは、10-FEETの「1sec.」を初めて聴いたときの心情だと推測される。めっちゃかっこいいロックミュージックのど真ん中を闊歩する英詞。とりあえず聴いてみてくださいませ。

 TOEICの試験会場に鉛筆を持っていき忘れるほどの英語力の私でも翻訳できてしまうこの英詞。10-FEETだから、背中を押してくれたり、明日への活力を見出させてくれるものだと思ったら…

 アメリカに行ったらたくさん食べて太っちゃったって歌だった。この事実に気づいたあの瞬間は一生忘れないと思う。

 え、パンクロックずるくない?
 かっこよすぎない?

 途中、「PIZZA FIGHT!」という馬鹿げているフレーズが連呼されるが、ライブでは、特大のシンガロングが生まれてるし、サビに行けば「big coke」なんていう、1sec.意外の楽曲で登場しないであろうワードがあるし…。

 自分にもパンクロックを生み出す才能があれば…どんな日常もカッコよく、なんならそれをフロアでみんなが口ずさんでくれるところまで持っていけるのに…。パンクロックというカルチャーにジェラっちゃったな。目指せ、パンクnote!

いつ書いたのか覚えていないけど。

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部屋の掃除をしていると、コロコロに言葉がくるまっていた。

インディーズデビュー23周年

 下北沢でご機嫌に歩いていたら、ネバヤン(never young beach)を弾き語っているお兄さんがいた。その光景が3か月経った今もこびりついている。大体路上で弾き語りをする人は、誰もが知っている名曲をアコギに乗せて歌っているイメージだったので、さすがサブカルの聖地だと胸が躍った。

 あのお兄さんはいつか歌手としてメジャーデビューしたいのだろうか。

 どのアーティストも武道館や大阪城ホール、横浜アリーナ、東京ドームに日産スタジアムとか、大きい会場でライブをするのを夢見ているものだと思っていた時期があった。けど、1日の武道館ライブをするなら、Zepp Tokyoで5日間したいと言ってチケットをソールドアウトさせたバンドもいれば、あのSUPER BEAVERだって、メジャーデビューしたもののインディーズに戻った時期があった。

結成○○年というのは大体インディーズデビューの時期から数えられているものだ。じゃあ、私はインディーズデビュー23周年にあたるのか…なんてふと思った。地球というフィールドで、誰かの人生にお邪魔することで、その人の記憶に再生履歴を残すこと。それが人生だ。もちろん、武道館のように1回で1万人以上の脳内に登場することはできないけど、3人で泣きながら飲みくたびれた夜が、人生がちょっと変わるものだったり、2人きりで終電を逃した夜がなぜか忘れられない夜だったりする。それをたくさん繰り返せたらいい気がする。小さなライブハウスを大切にするバンドに自分を勝手に重ねて、吐き出したものの、いつのまにか微細な埃と同化して、ベッドの下に隠れていたこの言葉。だけどすごい愛おしくて、実は好きなフレーズだったりする。

いつ書いたのか忘れちゃったけど。

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失恋しても、部屋は狭いままだった。

そのメモ帳を見つめることしかできなかった。

失恋しても生活はなんにも変わっちゃくれない。

そう加筆しておいた。

明日の俺はきっと忘れていると信じて。

いや、ちがう。

忘れたふりをしてくれていると信じて。

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