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TM NETWORK「Alive」:タイムマシンから降り立った音楽家は、2014年の音で音楽をデザインする

TM NETWORKのオリジナル・アルバム『QUIT30』がリリースされたのは2014年10月29日。2012年から始まった一連の活動を総括した作品であり、2015年のゴールに向けた最後の活動の嚆矢として発表されました。

『QUIT30』の冒頭に配置され、アルバムの幕を開ける曲が「Alive」です。アルバムの最後にはリミックス「Alive -TK Mix-」が収録されていて、『QUIT30』の始まりと終わりを「Alive」のメロディが飾ります。

最初に「Alive」を聴いたとき、メロディの雰囲気やウツの歌い方が、TM NETWORKにおける最初のDECADEに近い気がしました。グループの青春時代、すなわち1980年代の空気を感じます。けれども、レトロスペクティブな空気は曲の終盤に入ると霧消します。紛れもなく2010年代の曲であることを決定づけるのが、最後のサビにフェード・インしてくるシンセサイザーの音です。

Aメロをもとにデザインされたこのフレーズ(あるいはここからAメロが生まれた)は、ヨーロッパやアメリカのEDMに匹敵する中毒性を持ちます。それまで広がっていたポップスの世界をEDMに塗り替え、聴き手の印象を刷新する音です。このフレーズはTK Mixにも登場し、オリジナルの音より太く厚くなって、EDMの色を一層濃くしています。

「Alive」のミュージック・ビデオでは、〈TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30〉ツアーで使った映像が編集されています。断片的に映る三人の姿は抽象的で、ツアーの内容や3年間の活動を知っていればともかく、単体では何を示しているのか分かりません。それならばいっそ当時の文脈から離れて、イマジネーションの海に漕ぎ出してみるのもおもしろそうです。

タイムマシンから降りてきたのは、ひとりの音楽家。1987年から2014年に移動してきて、そのまま「Alive」を書き、2014年の音を吹き込むと、またタイムマシンに乗って消えます。次の行き先は未来なのか、過去なのか。その姿を見かけないときは、きっとどこか別の時代に降り立っているのではないか。そこで音楽をデザインして、その時間を生きる聴き手に届けているのかもしれません。


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