見出し画像

村野真朱・依田温『琥珀の夢で酔いましょう』:醸造所は「コミュニティの一部」として地域に根差し、多様な形で人々を結びつける

新刊の表紙に描かれたのは春風に舞う桜とビール、そしてビールがつないだ縁。クラフトビールを題材にした漫画『琥珀の夢で酔いましょう』(原作:村野真朱、作画:依田温)の第5巻が刊行されました。本書には第21~25話が収録されています。取り上げたテーマは多岐に渡り、なかでも興味深いと思ったのがクラフトビールと地域の結びつきです。

第23話では、キャラクターの発言を介して醸造所の思いが写し取られています。印象に残ったのは「醸造所はコミュニティの一部」というシンプルな言葉であり、そこにクラフトビールの社会的役割が示されています。続く「クラフトビールという文化を地域の中につくりたい」「その延長線でよそからいろんな人が来てくれる」といった言葉からは、クラフトビールとの結びつきが地域に新たな意味を生むのかなと思いました。醸造所は地域に根差して人々をつなぎ、ビールの拡販やイベントを通して、その輪が少しずつ外に広がっていきます。

京都の西陣麦酒が登場する第25話も、地域との結びつきが主題となっています。実在のブリュワーが登場し、重視するのは斬新さや奇抜さよりも「『包み込む』ような独自性」だと語りました。ビールに興味のない人もゆるやかに包むようにして、「ビールを通して地域の人たちやビールファンがつながっていけたらいい」とのことです。また、西陣麦酒の始まりは地元の障害者の就労支援であり、それも地域とのつながりを意味します。

この物語を通してクラフトビールと地域の結びつきを意識することは、自分の具体的な行動につながりました。そのひとつが、故郷の醸造所が始めたクラウドファンディングの支援です。安曇野ブルワリー(長野県安曇野市の穂高駅前にある新しい醸造所)は、安曇野産の大麦、ホップ、北アルプスの恵みである水でビールを造り、各地に届けたいとしています。この醸造所が掲げる「地域原料100%のクラフトビールの先駆者」という夢は、まさしく「醸造所はコミュニティの一部」を体現しているのではないでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?